移住を決めた運命の出会い。「文化財×マーケティング」で福岡の町並みを守る
せっかく地方に移住するなら、その土地ならではの事業に関わりたい、地域に貢献したいと考える人は多いのではないでしょうか。
福岡県柳川市にある料亭旅館「御花」で働く金原さんも、昔ながらの町並みを残す仕事がしたいと考えていました。しかし、「文化財でマーケティングしたいと言っても、誰も振り向いてくれないと思っていた」と振り返ります。
金原さんの移住のきっかけとなった「運命の出会い」から、希望通りの仕事にめぐり合うまでを伺いました。
ひとめ惚れがきっかけで福岡へ
ー京都で育った金原さんは、文化財に触れる機会が多く、高校生の時には「昔ながらの町並みを守りたい」と感じていたそうです。大学でも地域に関する分野を学び、卒業後は東京のマーケティング会社に就職しました。
昔から「古きよき日本の景色を残したい」と感じていて、町並み保全や地域振興に興味がありました。そこで、最初は公務員を目指したんです。
でも色々な人に話を聞く中で、補助金などだけでは解決できない問題がたくさんあると知り、ビジネス面からも考えることが重要だと気づきました。歴史的な施設の活用に関しても、きちんと売り上げを立てて回せるようにならないと、残すことは難しいと思ったんです。
まずはマーケティングの手法を身につけようと、東京のマーケティング会社に入りました。
ー1社目ではどんなお仕事をされていたんですか。
入社後は、営業に配属されました。「日本のものづくり産業を元気にする仕事がしたい」と言い続けていたら、幸いにも最初にものづくり系の案件を担当することができたんです。
もちろんそれだけではなくて、BtoBからBtoCまで、様々な分野のマーケティングを担当しながら4年間働きました。
ーその後、福岡に移住しようと思ったきっかけを教えてください。
母の実家が長崎県の島原にあるんですが、そこで作っているお米がなかなか売れなくて「もうやめようかな」と言ってるのを聞いたんです。そこで、私のマーケティング知識を使って手伝いたいと島原に通い始めました。
ある時、福岡の知り合いが田植えに来てくれることになり、人手が必要だからと同じ会社の方を連れてきてくれたんです。その中の1人に、私が一目ぼれしちゃったんですよ。人生で初めての経験だったんですが、とんとん拍子に話が進んで結婚することになり、急に福岡移住が決まりました。
ーまさかのひとめ惚れで移住を決めたんですね!
そうなんです。もともと文化財を好きになったのも、祖母の家が古民家だったというのがあったので、九州に帰りたいとは思っていました。自分の中で九州はすごく大事な場所なので、いつか住みたいなと。
御花がなくなったら後悔すると思った
ー福岡への移住を決めた金原さんは、転職経験のある友人にエージェントを紹介してもらいます。しかし、そこで「福岡は専門外です」と言われ、たまたま教えてもらったのがYOUTURNでした。
キャリアコンサルタントの高尾さんと面談した後、早々に御花を紹介して頂いて、完全に舞い上がりました。「こんなところあるんや!」って。「文化財でマーケティングしたいです」なんて言っても、普通は振り向いてもらえないと思うんです。
施設の所有者さんもマーケティングの必要性に気づいてないことが多いし、まだまだビジネス化しているところは少ないので。
御花が本当に特例というか、国指定の名勝地でビジネスをやっていることが珍しいと思いました。しかも400年前から土地を治めている立花家の方が今も社長を継いでいる。それまで存在すら知らなかった御花を高尾さんが教えてくれて、サイトを見ながら興奮しすぎて立ち上がってました(笑)
御花みたいに貴重な場所がなくなってしまったら、後悔すると思ったんですよ。福岡は色んなベンチャー企業があるんですけど、もう他の会社は目に入らなくなりました。
ーまさに運命の出会いという感じですね。
そうなんです。高尾さんは、なんというか、「とんでもないプレゼントを届けに来ました」って感じの人ですね。なんで私の欲しいものがわかるんですか?って。それまで人材会社の人ってちょっと怖いイメージがあったんですけど。
やっぱり、日々色んな人の話を聞いてると、どうしても対応が事務的になっていくと思うし。だからこそ、あんな風に寄り添ってくださって、人に嫌な感じを与えない雰囲気を持っているのはすごいと思いました。
ー旦那さんは御花への就職について何と仰っていましたか。
夫には「福岡市内で就活してね」と言われていたのに、いきなり柳川市の御花で働きたいと言ったのでかなり驚かれました。「福岡市内の方が通勤もしんどくないよ」と気遣われましたし、親族にも「家から遠すぎる。新婚なんだから」と反対されました。
なので最初はお断りする前提で御花の代表に会いに行ったら、「在宅勤務でもいいよ」と言って頂いて。え、じゃあ働けるやんって(笑)。「在宅OKやって!」と報告したら、夫も「好きなことやるのがいいよね」と理解してくれました。
ー今は福岡市内にお住まいなんですよね。
そうです。最近は忙しくて御花にいることが多いんですけど、基本的には週3日在宅、出勤は週2日ぐらいです。打ち合わせは全部リモートでやった方が集中できて、実務とのメリハリがつきますね。
通勤も、距離はありますが東京みたいに混雑しないので快適です。福岡市内はかなりコンパクトなので、東京にいた頃より移動で疲弊しなくなりました。空気もおいしいし、散歩が楽しいですね。
実際に住んでみて、福岡の「これからカルチャーが作られていく空気」がすごくいいなと思います。京都はもう文化が出来上がっていて揺るぎなかったし、東京は最先端のものが得られて楽しいんですけど、福岡には「今からだぞ」っていう雰囲気がありますね。
新しい発想で伝統を守っていく
ー今年の1月に移住し、5月から御花での仕事を始めた金原さん。現在はマーケティング担当として、顧客向けに次々と新しいプランを企画しています。
入社するタイミングで、ちょうど御花がコロナで休業したんです。出社できないから入社を1か月延期するような状態だったんですけど、「1か月も何もしなかったら、この施設はどうなるんだろう」と考えてしまって。
「何かやらせてください」と、休業中に「船で朝食を食べられるプラン」を作り、「未来の宿泊券」の販売も始めました。最近は、御花のFacebookページの更新にも注力しています。
そういった企画以外にも、運用マニュアルやサービスマニュアルを作ったり。あとは、各プランに対しての船会社の調整もしています。船会社さんには連絡用にSlackを入れてもらって、そこでマニュアルを共有して。
観光客が少ない今を利用して、もっと面白いことができるんじゃないかと思っています。今までにない新しいことを実現するために、船頭さんと細かくコミュニケーションを取りながら進めています。
企画から運用に乗せるまで全部やっているので、もう頭がいっぱいなんですけど、すごく充実してますね。柳川には他のどこにもない文化があるから、町の良さを活かした企画を打ち出せることに喜びを感じています。
ー入社前と今とでギャップは感じませんでしたか。
福岡に来る前は、「東京でマーケティングやってました」と言ってもびっくりされるだけじゃないかと思ってたんですよ。まだ自分も若いし、「何でそんなこと言われなきゃいけないんだ」と反発もあるだろうなとか。
でも、御花の皆さんは本当に優しい人たちばかりで、想像とは全然違いました。ただやっぱり忙しくなってくると、物理的にコミュニケーションが取りづらくなるので。予約が繁忙期になった時に、通常の業務に加えて企画も同時進行で進めるにはどうすればいいか、そういう難しさは感じますね。
あと、日々働く中で自分のスキルの足りなさはすごく感じます。特に実務をするのは初めてなので、そこは本当に試行錯誤しています。
今後も観光庁の補助金事業などどんどん新しいことに挑戦していく予定ですし、優先順位をつけないとなと思ってます。実はここまで出番があると思ってなくて(笑)、バタバタしすぎちゃってるので。
でも、これほど希望にどんぴしゃな仕事が見つかることはそうないですし、だからこそ頑張りたいんです。御花の「新しい目線で古きよきを守る」っていうところを、私も出来ることを懸命にやりながら、一緒に進めていきたいと思っています。
<執筆後記>
昔から「腹で決めたら一直線に突き進む性格」という金原さん。直感に素直に従った結果、転職と結婚、両方を得ることができました。
人生には、金原さんのように追い風が吹くタイミングがあるのではないでしょうか。「今だ」とピンと来たら、その風に乗ってみるといいかもしれません。
もし目の前にチャンスがやってきたら、迷わずに掴み取ってみてください。