はじめに

2018年4月、ICI石井スポーツや九州広域復興支援ファンドなど合計14社を引受先とする第三者割当増資を実施し総額約12億円の資金を調達した福岡のスタートアップ「ヤマップ」

電波の届かない山の中でもヤマップのアプリを使えば、山の地図と自分の位置が把握でき安全に登山ができるサービスを展開。登山愛好家の間で話題となりユーザー数を増やし、日本最大級の登山家コミュニティーを形成した同社。その事業の背景となる独自の思想、ヤマップ事業のこれまでとこれからを、代表の春山慶彦氏にお聞きしました。


人生の方向性を決める自然との出会い

ー 春山さん、今日はよろしくお願いします。 はじめに、春山さんがヤマップ事業を手がけることになった背景から教えてください。

私自身が「自然」というものに「触れた」ときに強烈な衝撃を受けたという原体験がベースです。私は18歳まで福岡でスポーツばかりしている子供でした。両親も仕事で忙しかったため、家族で一緒に遊びに行ったり、山登りをして自然に触れるなどはほとんど記憶にありませんでした。


大学に進学したときに、改めて「現実の世界からしっかりと学びを得たい」という思いに駆られまして、自転車に乗って野宿をしながら九州を一周したことがありました。自転車での旅というのは、一日の終わりにちゃんとお風呂に入らないと次の日結構きついんです。当時野宿をしていたのですが、お風呂だけはなんとか毎日入るようにしていました。

屋久島の西岸にある永田という集落があるのですが、そこにはウミガメが産卵しにあがってくるそうで、それを見たくて永田にある民宿にお風呂だけ借りるために立ち寄ったことがありました。宿のご主人から「ゴールデンウィークのシーズンが終わって暇もあるからご飯を食べて行っていいよ」と言って頂き、ご主人と一緒にお風呂に入ってお話をするうちに仲良くなりまして、「魚の捌き方や森で山菜をどう採るかを全部教えてやるから1ヶ月働いて行かんか?」と誘っていただいたんです。私も「そんな経験はなかなかできる機会がないだろう」と思いその場で1ヶ月滞在することを決め、永田の海に潜るようになりました。

ー なんと、はじめは「山」ではなく「海」だったんですね(笑)。

そうなんです、最初は「海」なんですよ(笑)。
海に入ったときにかなりの衝撃を受けました。永田の「いなか浜」というすごく綺麗な浜があるのですが、エイやウミガメが泳いでいる。スキューバダイビングなど大掛かりなことをしなくても、素潜りでそんな世界が広がっていたんです。自分が知らなかっただけで「こんなにすぐそこに違う世界が広がってるんだ」という衝撃です。


1ヶ月永田で過ごしているうちに、「自転車で走る」ということにすら違和感を覚え始めました。自転車は結局人工の道路の上しか走れませんので、車で走って見る世界、景色となんら変わりがなかったんですね。やはり自分の「足」で歩いて自然のなかに入っていかない限り、本質的なものを見ることができないなと思ったんです。


屋久島の永田での経験を経て、自転車の旅から歩く旅に変えたいと思ったところ、当時大学のサークルの顧問の先生から登山を薦められました。「山のほうが面白いから連れてってやる」と言われ、そこから山に入っていくようになったんです。

ー そういう原体験から春山さんの価値観が出来ていったのですね。

ヤマップは理念として「テクノロジーで自然と都市を繋ぐ」ということを掲げています。


日本だけでなく、世界の「都市化」は今後も進んでいくでしょう。
日本だと東京一極集中というのもそうそうすぐになくなるものではないと思っています。だからこそ、都市化の反動として「自然のなかで体を動かしたい」という潜在的な人間の欲求は増えていくだろうと考えています。スポーツジムやヨガ、グランピングやマインドフルネスというものが出現したのが良い例ではないでしょうか。


実は、農業など日常で自然に触れている人たちは、マインドフルネスなどというのは自然と出来ているんですよね。草刈りをしてる間は何も考えず黙々とやる。これはある意味「瞑想」に近い状態だったりします。

しかし都会で生活しているとそういった時間を意識的に作り出さなければなりません。意識的に時間を作り、言葉を作る。アクティビティを意識的に定義していく動きは今後も増えると思います。
自然の山の中を走り回る「トレイルランニング」が良い例です。トレイルランニングといえばかっこよく聞こえますが、やっていることは「山を走る」ということなんですよね(笑)。

都市化の反動で、人類本来の欲求を満たしていこうとする流れができる。それを満たす方法が、「長い歴史で人類が自然にやってきたこと」というのは面白い現象だなぁと思います。

ー ヤマップのサービスは、何がきっかけとなって始まったのですか?

ヤマップのサービスは2011年5月に着想しました。


大分県の九重連山を登っているときでした。スマートフォンを持って行ったのですが、Google Mapを開いたら当然ですが電波が届かず山の中では使えませんでした。ただの白い画面がでできて自分の位置を示す例の青い点だけが表示される状態。「あぁ、やっぱり地図出ないなぁ…」と。

1時間くらい歩いたあと、もう一回スマホを開いてみると、白い画面は変わらないのですが、なんと青い点は動いてたんです。


そのとき「あっ!」と気づいたんですね。


地図部分は電波を通じてデータを取り込んでいますから、電波の届かないところでは白地図のままなのですが、位置情報(青い点)は宇宙のGPS衛星から拾って動いているんです。「山のなかでもGPSで自分の位置は分かる」ということは、スマホ端末に予め地図データを保存しておけば、電波の届かない山のなかでも地図が使えるということがわかったんです。


当時、そのようなサービスをやっている会社もなかったので、「これはもう自分がやるしかない!」って思ってしまったんです。


私はもともと起業したいと言う欲もなかったですし、アプリ・webサービスの仕事をしてきたわけでもないので、どうやればいいか全くわからない状態からのスタートでした。そこから一心不乱にサービスを作ってきて今に至ります。

創業からの5年間、経営者春山氏の覚悟

ー 一心不乱にやってこられた創業からこれまで、どのような5年間でしたでしょうか。

漫画ドラゴンボールに出てくる「精神と時の部屋」に入っている感じです(笑)。
「修行している」という感じですね。私は、経営というのは、大げさかもしれませんが、神様の領域に触れる感覚があると思っています。


何を言い出すんだ?と思われるかもしれませんが、経営者だけでなく芸術家や研究者のなかにも近い感覚を持っている人がいると思います。同じような頂上を見据えながらも、芸術の側から登るのか、学問の側から登るのか、経営の側から登るのか。登り口や登っていくルートは違うけれど、みな同じところに触れていく。確かに自分たち自身の意思でやっていることなのですが、本当はなにかに導かれてやっている、という感覚です。


経営の神様と言われる稲盛和夫さんが経営者を語る際、「畏れ」「謙虚」「感謝」などの表現をよく使っていらっしゃるのですが、経営者になるまでイメージできなかったことが、経営をやると本当にそう思うようになるんだな、ということを実感する5年間でした。


自分たちのやっている事業は自分たちだけの力でできているわけではない。もっと高い目線で仕事・事業をしていくということを考えなければ罰が当たってしまうのではないか、そんな感覚で今は生きてます。

ー 興味深いお話ですね。実際にどのようなときにそう感じられましたか?

最初に感じたのは、2016年に1.7億円の資金調達をしたときです。「ひと様から1億以上の金をお預かりする」という行為は、日常からかけ離れた狂気の世界だと思ったんです。


最近ではスタートアップは「資金調達して当たり前」という風潮になってきているところがあるかもしれませんが、ベンチャー・スタートアップというのはやはり異常な世界でして、全く当たり前ではないんです。その事業に対して共感・期待してくれる方が存在してくれて「何千万出資します」という世界は、やはりある意味異常な世界です。私はその異常さが大好きなんですが…(笑)。


ベンチャー投資の世界というのは、「未来に対しての投資」であり、「若い人材に期待して育成する」という感覚で出資をしてくださる方もいらっしゃいます。こういう業態の事業はビジネスの世界ではなかなか無いと思います。


よく講演などで、私は「もし吉田松陰が現代に生きていたらベンチャーキャピタルをやっていると思う」と話すことがあるんです。ベンチャー投資というのは、事業と教育が両輪で回っているように思います。そして起業家は事業を通じて社会的インパクトを出すことにコミットし、投資してくださった方々にしっかりとお返しする。こういった投資する側と投資される側の関係性は素晴らしいと思っています。

ただ一歩引いて見ると、やはりかなり異常なことやっている(笑)。

ー 吉田松陰も「諸君、狂いたまえ」と言っていますね。

狂気の世界がここにある、そして自分自身もこの狂気の世界にいる。1億円以上お金をお預かりすると、自分自身に「お前はその覚悟はあるのか?」と問いかけることになるわけです。


ひと様から1億円以上お預かりするかどうかを目の前にして、「この事業をやりきれるだけの大義名分は何なのか」、「志に曇り一点無いのか」ということを、自分自身に問いかけ、確かめる期間が私には必要でした。

その期間を経て、私は「私利私欲のためにやるのではない」ことを確認でき、「この事業に命をかけたとしても悔いはない」と思うことができたので、シリーズAで本気で投資家の方々に「出資お願いします!」とお願いすることが出来ました。

ー そして今回の総額約12億円という大型調達。さらに大きな出資を受けるわけですね。

自問自答を通じた覚悟は、シリーズAで乗り越えましたので、今回の大型調達に対して私自身の躊躇はありませんでした。なによりも、この感覚を今の経営メンバーで今回共有できたことが大きな意味を持つと思っています。一枚岩で事業がやれると思います。


実際にこのラウンドを経営メンバーと一緒に進めていくなかでも、本当にいろんなご縁に恵まれました。それを私含め経営メンバー全員で感じることができました。「これはもう僕らの力じゃないね」「だから、謙虚じゃなければ恥ずかしいよね」という話を経営メンバーで折に触れてしています。


だからこそ「強くて美しいビジネス」を創り上げて、「地方のベンチャーでもやれるんだぞ」というのを証明していきたいと思っています。

【次へ】大型資金調達後のこれからの事業構想とは

会社情報

所在地福岡市博多区綱場町2-2 福岡第一ビル6階
設立年月2013年7月
社員数20名
関連業界レジャー/メディア/アプリ
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