地域とともに歩み続ける。
育成型サッカークラブの挑戦
サガン・ドリームスは、Jリーグに所属する「サガン鳥栖」というサッカークラブを運営する会社です。私たちのミッションは、「世界で活躍する人を創ることで、鳥栖・佐賀の人々の豊かな未来を創る」ことです。
古くは伊万里・有田の陶磁器が世界を席巻し、佐賀藩が日本の近代化のトップランナーとして走ってきたように、この地域は世界を受け入れ、世界に進出しながら発展してきました。
サガン鳥栖を通じて、世界に進出できる人材を育成し、その人材が地域に還元することで、鳥栖・佐賀の未来をより豊かにしていきたいと考えています。
設立は2004年ですが、2024シーズンの決算で3期連続の黒字決算となりJリーグクラブライセンス取得の為に課題であった債務超過を5期ぶりに解消しました。
売上高は30億5,894万5千円(前期比122.5%)、営業利益2億8,321万5千円(前期比191.8%)となり、経常利益は2億1,445万6千円(前期比135.0%)、最終的な当期純利益は1億8,704万(前期比146.6%)となりました。
私たちの事業は、プロサッカーチーム運営が中心です。ただ試合に勝つだけでなく、地域とともに成長することを目指しています。
売上構成は、広告収入が32%、興行収入が20%、Jリーグ配分金が9%といった割合になっています。特に力を入れているのが育成型クラブとして最も重要なアカデミー事業です。
U-18やU-15などの育成チームが全国大会で優勝するなど、若い才能の育成に注力しています。
それ以外にも、地域貢献活動として、公式マスコットの「ウィントス」が佐賀県内の小学校を訪問する挨拶運動や、選手による交通安全啓発活動や投票率向上のための選挙啓発活動など、多彩な社会連携プログラムを展開。
31カ国約180名の在住外国人によるフットサル大会「Sagan World Cup」といった街と共に街を盛り上げるイベントも共催しています。
サガン鳥栖の歴史は、挫折と再生の物語です。1994年に静岡県浜松市から「PJMフューチャーズ」が佐賀県鳥栖市へ移転し「鳥栖フューチャーズ」となりましたが、親会社の撤退により1997年1月に経営破綻しました。
この危機に際し、全国から5万5千もの支援署名が集まったことを受けて、Jリーグは特例措置を決定。1997年2月4日、佐賀県サッカー協会や地元団体の支援でサガン鳥栖が誕生したのです。
「サガン」には佐賀の方言で「佐賀の」という意味と、砂粒が長い年月をかけて固まり強固な「砂岩」となるという意味が込められています。1999年にJリーグに正式加盟してJ2に参戦し、2011年にJ1昇格を果たしました。
その間、佐賀県サッカー協会理事長だった坂田道孝氏の「サガン鳥栖はいつか佐賀になければならない宝になる」という言葉を胸に、地域に根差したクラブとして成長を続けています。
2024年にはJ2降格という試練に直面しましたが、これを新たな成長の機会と捉えています。
サガン鳥栖の最大の強みは、アカデミー出身の若い選手たちです。2017年にU-15が初めて全国大会で優勝して以来、U-18も含め数々のタイトルを獲得してきました。
2022年には高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグで日本一になり、さらにはキャプテンだった選手がドイツの名門バイエルン・ミュンヘンに移籍するという快挙も達成しました。
もう1つの強みは地域との強固なつながりです。佐賀県内20市町のうち17の自治体と交流宣言を行い、さまざまな地域課題の解決に取り組んでいます。
たとえば子育て支援に協力してほしいという地域もあれば、子どもたちの教育にスポーツを取り入れたいという自治体もあります。
このように地域のニーズに応じた連携ができているのは、他のクラブと比べても特筆すべき強みだと思います。
私たちのビジョンは「アジアを代表する育成型クラブとなる」ことです。
短期的にはJ2優勝・J1昇格を目指し、中期的には育成型を活かしてJ1で安定した成績を収めること、長期的にはアジアで戦えるクラブになることが目標です。
今後はアカデミー選手の積極的な登用によりトップチームのホームグロウン選手(自前で育成された選手)を30%以上維持していくとともに、引き続きクラブ経営の健全化と純資産の確保に努めます。
また、アジアマーケットの開拓やビジネス展開、スポンサー商品を活用したライツ事業、施設の指定管理業務へのチャレンジなど、新たな事業展開も計画しています。
現在の最大の課題は、経営の安定化です。J1とJ2では分配金に2.5倍もの差があり、J2での経営は非常に厳しい状況であります。
新規スポンサーの獲得、既存スポンサーのアップセル、クロスセルによる広告収入の増加、新規顧客の獲得による来場者数のUP、グッズ商品の拡大によるMD部門の売上増加など3つの柱を中心に売上拡大に努めていきます。
組織面では、新たに6つの行動指針「進取」「責任」「成長」「献身」「努力」「不屈」を策定し、サガン鳥栖としての価値観やクラブDNAの形成に取り組んでいます。
人材確保も重要な課題で、特にスポーツビジネスに限らない多様な経験を持つ人材を求めています。
サッカークラブで働く最大の魅力は、毎週のように”喜怒哀楽”を体験できることだと思います。勝ったときの喜びはすべての苦労を忘れさせてくれます。
地域の人々に支えられていることを実感できますし、自分の夢の実現と同時に地域の皆さんの夢も叶えていける、そんな特別な仕事です。
サガン鳥栖というクラブには、1997年の創設時から脈々と受け継がれてきた「砂岩魂」があります。個人の力は砂粒ほどでも、多くが長い年月をかけて固まれば強固な砂岩となる——そんな思いで日々挑戦しています。
ぜひ一度この環境を経験してほしいですし、ともに鳥栖・佐賀の未来を創っていける仲間との出会いを楽しみにしています。
入社以前にしていたこと
学生時代、そして社会人3年目まで競技者としてサッカーに関わっていました。
ビジネスの世界では、新卒で入社した日本の電機メーカーで人事キャリアをスタート。アドビシステムズ(現:アドビ)を経て、2000年にトレンドマイクロ入社。
その後、米国製薬会社、日本イーライリリーに移り、2009年にトレンドマイクロに再入社し、2011年より人事部門トップを務めました。
2019年にスマートニュース、2023年にレシピ動画サービス クラシルを運営するdelyで人事総務部門の責任者を務めていました。
入社した理由
IT業界でキャリアを積みながら、2022年にプロスポーツクラブの経営についてスポーツヒューマンキャピタルで学ぶ機会を得ました。
同じ志を持つ仲間とともに深夜に及ぶ議論も刺激的で、現役時代、満たされなかったサッカーへの強い想いを改めて確認する機会になりました。
修了後、副業でいくつかのクラブの人事制度構築を手伝う機会があり、次はフルタイムで挑戦したいと考えていたところ、オファーを受けたのがサガン鳥栖でした。
ビッククラブより小規模なクラブの方が自由度が高く挑戦しがいがあると感じていたため、過去に陥った経営危機とその原因を理解した上で、社長の経営姿勢や、強化部に大学時代のサッカー部の後輩がいたこともあり、思い切って転身を決意しました。
今、取り組んでいること
入社して感じたのは、経営面でポジティブな変化が進んでいるものの、個人の力による結果が中心で、組織としては発展途上の状態だということでした。
社員は皆、熱意をもって仕事に取り組んでいますが、事業を成長させるためのノウハウや組織づくりの経験が十分ではなく、若手社員の定着率にも課題がありました。
そこで現在は、組織の上層部から必要なポジションを埋めていく作業を進めています。社長には日々の売上確保だけでなく、将来の成長に向けた施策に時間を使ってもらうため、営業責任者やマーケティング責任者といった重要ポジションの採用・早期戦力化を進めています。
この活動で組織の成長をけん引するリーダーシップチームが出来上がったら、次は現場最前線で働くリーダーやメンバーの皆さんの採用、人材育成に取り組むつもりです。
また、トップチームの監督、選手の人事、編成を担う強化部門やサガン鳥栖のエンジンとなっているアカデミー組織の業務も一部担当しており、移籍金収入に依存しない安定した経営、収益基盤の構築とともに真の育成型クラブの実現を目指して活動しています。
佐賀県鳥栖市京町812
39,445万円
30億5,894万5千円(2024年度実績)
代表取締役社長 小柳 智之
2004年12月
23名
スポーツ/エンターテインメント
https://www.sagan-tosu.net/club/company/
YOUTURNからのコメント
育成型クラブが描く、地域企業の未来
高尾大輔
YOUTURN 代表取締役 キャリアコンサルタント
サガン・ドリームスへの取材を通じて、地方スポーツビジネスの可能性と課題が浮き彫りになりました。世界で活躍する人材を創るというビジョンを掲げ、アカデミー事業に力を入れる姿勢はまさに「攻め」そのもの。
一方で、組織の基盤作りはこれからというフェーズにおいて、成田さんのような企業経験豊富なU・Iターン人材の価値があります。大企業で培った知見が地方企業の成長に直結する好例と言えるでしょう。
サガン・ドリームスは「地域貢献」と「プロフェッショナルとしての挑戦」を両立したい方にとって魅力的な選択肢です。
年収や生活環境は大都市と異なりますが、「住みやすさ」や「自由度の高さ」という地方ならではの魅力も確かに存在します。
キャリア後半戦の働き方や、ライフワークバランスを重視する選択肢として、地方スポーツビジネスへの転身は検討に値するのではないでしょうか。