【イベントレポート】福岡を代表する企業と語る「福岡発メガベンチャーの創り方」

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09/14/2018 更新

「世の中を動かすベンチャー企業は東京一極集中」「大きなことを成し遂げたければ東京で」そういった常識は今、確実に変わりつつあります。福岡市がスタートアップ都市宣言を出したのが2012年。それから約6年が経ち、ネクストキャリアとして福岡での挑戦を選ぶビジネスパーソンが増えてきました。

ですが「実際にどのように福岡でキャリアアップを築くのか」「福岡のメリットと課題」などを知ることができる有用な情報がまだ世に少ないのも事実です。

そこで株式会社ホープ代表取締役兼CEOの時津孝康さんをお招きし座談会形式のイベントを開催。「そもそもメガベンチャーの定義とは」「福岡でメガベンチャーは創ることができるのか」「福岡のメリットと課題」などに話が及んだ本座談会の内容をレポート形式でお送りします。

※この記事は2018年8月27日に株式会社YOUTURN主催でダイアゴナルラン東京にて行われたイベント『福岡を代表する起業家と語る「福岡発メガベンチャーの創り方」』を元に再構成しています。

<スピーカー>
◇時津 孝康 氏
株式会社ホープ 代表取締役社長兼CEO
1981年1月生まれ、福岡県出身。2005年福岡大学在学中に有限会社ホープ・キャピタル(現:株式会社ホープ)を創業。「自治体を通じて人々に新たな価値を提供し、会社及び従業員の成長を追求する」という企業理念のもと、自治体の持つ遊休スペースを有料広告枠として活用する「広告事業」を中心に自治体の財源確保をはかる新たなビジネスモデルを確立している。同社は2022年に売上100億の目標に向けて急成長を続けている。


<モデレーター>
◇中村 義之
株式会社YOUTURN 代表取締役
2010年(株)みんなのウェディングに取締役として創業に参画。2014年、事業本部長として会社設立から3年半で東証マザーズに上場。2016年、株式会社YOUTURNを創業。人材、農業、ヘルスケアなど幅広い事業を立ち上げ中。

◇高尾 大輔
ベンチャー企業の幹部採用支援に特化したプロコミットにてコンサルタント、事業責任者を務める。2018年、株式会社YOUTURNにキャリアコンサルタントとして参画。(国家資格キャリアコンサルタント)

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事業を拡大させる熱意と苦しみ

――時津さんは大学在学中の2005年に福岡市でホープ(当時:有限会社ホープ・キャピタル)を創業。

自治体の遊休スペースを活用した広告事業(旧:財源確保支援サービス)を軸に成長を続け、2016年に東証マザーズと福証Q-Boardへ上場しています。

まずは時津さんご自身からホープ社の創業の経緯や事業内容、創業者として大切にしていることについて語っていただきました。

時津 孝康氏(以下、時津):
もともと父が商売人だったこともあり、私は自分がどこかの会社に勤めるイメージがあまり湧きませんでした。それで「自分で何かしたい」と福岡大学在学中に会社を起ち上げたんです。

創業当初は生きていくだけで精一杯という感じで、特別なポリシーや理念はなかったんです。

しかし、お陰様で事業規模や従業員数が大きくなってからは皆の共通意識となる理念の重要性を実感し始めました。

そこで2014年に経営理念を「自治体を通じて人々に新たな価値を提供し、会社及び従業員の成長を追求する」と定めたという感じですね。

当社の事業のセグメントは4つ。そのなかで売上シェアが最も大きいのが、「SMART RESOURCE(スマートリソース)」と「SMART CREATION(スマートクリエイション)」の2つのサービスからなる広告事業です。

「SMART RESOURCE」は遊休スペースを活用した広告事業。自治体の広報紙などの遊休スペースを、在庫のリスクも含めて弊社が引き受け、広告枠として地元の企業に販売しています。

もともとは太宰府市役所の広報紙の広告枠を落札したことが始まりで、弊社にとっては初めて売上が立った創業事業です。

一方の「SMART CREATION」は、自治体の冊子の自社メディア化と考えるとわかりやすいかもしれません。たとえば、お母さん向けの子育てガイドブックなど、自治体が発行する冊子を弊社が無料で制作する代わりに、冊子の一部を広告枠にしていただきます。


――ホープ社はSMART RESOURCEとSMART CREATIONのハイブリッドサービスによって売上を伸ばし、2016年6月に上場。ただ、その後の2年間は時津さんにとって苦しい時期だったようです。

時津:2022年に売上100億円という目標を掲げているので、それを実現するために上場後はいろいろな分野に投資しました。その間、IRの窓口にお叱りの電話もいただいたし、私も白髪が増えました(笑)。ただ、そうやってまいた種がようやく芽吹いてきています。

その1つがメディア事業です。自治体の広報紙やホームぺージの最新情報をスマホでチェックできる「マチイロ」というアプリを運営していて、今のところ730の自治体に導入されています。ダウンロード数も約32万まで伸びてきたので、そろそろ課金を検討する段階に入ってきました。また、今期からは予算を組んで自治体向けのエネルギー事業をスタートしました。

私は自分の能力や才能をあまり信じていません。人や世の中を動かすためには情熱を持って人よりも頑張らなくてはいけないと思っています。

たとえば、弊社はこれまでトータル約59.5億円を自治体の財源確保に寄与してまいりました。これは私たちしか成し得ていない数字ですし、指標としても大切にしています。ただ、金額としてはやはりまだまだ少ない。弊社が本当にメガベンチャーになるなら500億円くらいには届いてないとおかしいと思っています。

今期から始めたエネルギー事業にしても、いま日本には約18兆円の電力市場規模があると言われていて、うち約1兆円(ホープ推定値)を自治体の需要が占めています。大手電力会社がアプローチしていない自治体も多いので、そこを全力で切り開いていくつもりです。

「メガベンチャー」の定義とは何か?

――次に、そもそも「メガベンチャーとは何なのか?」時津氏と弊社代表・中村を中心に、参加者から意見を出し合ってもらいました。ともに創業者で会社を上場させた経験を持つ2人は「メガベンチャー」をどう定義したのでしょうか。

中村 義之(以下、中村):メガベンチャーかどうかを測る定量的な観点で言うとユニコーン企業(※1)とかありますよね。それはあくまでグローバル市場のトップレベルでの話。福岡の現状にはマッチしません。一方、定性的な側面で僕が考えているのは「業界で圧倒的なポジションが取れていること」かつ「インフラになり得るくらいのサービスを提供していること」。

たとえばホープさんの場合、あまたの自治体と取引していて「“BtoG”(※2)の事業ならホープ」といった共通理解が業界でできあがっています。インフラになっているんです。だから、僕はホープさんはメガベンチャーになれる可能性があると思いますね。

※1……2013年にアメリカのベンチャーキャピタル「カウボーイ・ベンチャーズ」の創業者が使い始めたとされる言葉。時価総額または評価額が10億ドル以上のベンチャー起業を指す。

※2……Business to Governmentの略。政府や自治体向け事業

時津:私の定義は、とにかく大きく成長していく会社ですね。定性的な面はあまり考えたことがなくて、やはり売上高で1,000億円はないとメガベンチャーではないと思います。創業して一代目で売上1,000億円の会社って数えるほどしかないんですよね。いまの自分の会社からするととてもキラキラした世界というか、想像つかないレベルですが。

高尾:2022年で売上100億円が目標なんですよね。

時津:そうです。1,000億円となると、その目標のさらに10倍、いまの売上からすると約45倍です。さすがに想像を超えますね。

中村:逆に2022年に売上100億円を達成すれば、1,000億円も見えてくると。

時津:いや、私の性格からして売上70億円くらいまでいけば、平気で「次は1,000億円」と言うと思います。100億円の目標を立てたのも…たしか売上3億円から5億円くらいの時期でした。周りは「何言ってるんですか」と信じられないという目で見られていましたが(笑)。

ただ、そうやって口に出すとイメージが湧いてきます。当時目標まで33倍だったのが、いまは3.3倍でいいんだなと。そうしたら周りも「もしかしていけるかもしれない」と変わるじゃないですか。そうしたら勝ちですね。最初はたしかにしんどいですけど。

高尾:私はキャリアコンサルタントの観点から言うと、大企業の人が安心してそのベンチャー企業に行けるようになったら、既に「メガベンチャー」と呼べるのかなと思います。

大手のメーカーに勤める方の中で、いきなりスタートアップに飛び込めるかというとかなり難しい。違いが大きすぎていきなり飛び降りると怪我をしてしまうかもしれない。

そんなときに中2階的な役割というか、ベンチャー企業の性質も持ちつつ大企業的な規模感や安心感もある「メガベンチャー」があると優秀な人材がベンチャー企業にチャレンジしやすくなる。

高まるスタートアップ機運とサポート

――続いて、メガベンチャーを創るための福岡ならではのアドバンテージと課題について、時津さんに伺いました。

時津:良い点としては、高島市長が就任した時に機運というかムードというか、確実に何かが変わりましたよね。「福岡って面白そう」「興味あります」という人が圧倒的に増えています。本来、そういった機運づくりというのは市長でなく私達アントレプレナーがやるべき役割だったかなと思うのですが(笑)。

高島市長はさらに行政サービスや法人のサポートを拡充させていって、それに追随する形でベンチャー企業やスタートアップが増えました。起業しやすい土壌、雰囲気みたいなものが福岡にはあります。

中村:以前福岡のある経営者が「高島さんはよくやってくれた」と言っていました。「行政の仕事は気分・雰囲気をつくること。そこから先は民間の仕事。だから10年先・20年先どうなっているかは、自分たちの仕事」と。

時津:ただ、本当に難しいのは起業したその後です。たしかに起業は簡単にできるようになりました。しかし実が伴って事業を続けて行ける会社、人が実際にどれだけあるかは疑問です。

行政がつくった「いけるよね」みたいなムードが、「起業イコール成功のシンボル」みたいなフワッとした考え方につながっている気がします。そういう意味で言うと「起業しやすい雰囲気ができた」ことはやっぱり良し悪しあるかな、と。

高尾:なるほど。でも裏を返せば「フワッと」起業できる雰囲気があるということは、本当に力がある人にとってもやりやすい環境ですよね。

時津:そうですね。やはり成功を増やすためにまずは挑戦する数、つまり分母を増やさないことにはと思います。福岡全体で見れば1社起業するより100社起業があれば変わってきますよね。

経営層の右腕人材が入れば事業はスケールする

高尾:起業しやすいムードがつくられてきている一方で、課題としてはどうでしょうか?

時津:七社会(※3)の後に続く、圧倒的な成功体験を持つ会社がいないことはとても課題に感じていますね。

以前、福岡の会社の売上や事業内容をざーっと調べたことがあるんですが七社会を除くと、人材系の1社以外、売上1,000億円を超えている会社がないんですよね。自分の会社を含めて、圧倒的な成功体験を持っている会社がないんです。

高尾:そういった会社が出てこないのはなぜなんでしょうか?

中村:東京は本当にいろいろな会社があって、売上1,000億円の会社にいた人、1,000億円の景色を知っている人が普通にベンチャーに入ってきます。人材の流動性が高く、そういったことの連続が起きているんだと思います。

そういった人が入ってくると、一気に事業をスケールさせるきっかけができたりするんですよね。

時津:ええ。その点は東京が羨ましいです。福岡ではそんなケースはないですね。圧倒的な成功をしたベンチャー企業が出てこないから次に続くベンチャー企業も出てこない。

ただ、うちの会社がそのひとつになる可能性があるとは信じています。私は今後の事業について「壁打ちできる相手」に飢えていて、100億円とか1,000億円の景色を知っている人にはぜひホープに入って欲しいですね。そんな方が入ってきてくれたら、高い目線で会社の事業を拡大させ、世界を変えていく議論ができるでしょう。きっと一緒に、おもしろい世界を創れると思います。

※3…福岡市の任意の経済団体。正式名称「互友会」。九州電力、福岡銀行、西部ガス、西日本鉄道、西日本シティ銀行、九電工、九州旅客鉄道の7社が加盟している。

▲また、参加者同士の交流も活発に行われ、有意義な時間となったようです
おわりに

今回のイベントではここでご紹介した以外にも、「人口減少がホープ社のビジネスに与える影響は?」「東京に本社を移す可能性はあるか?」といった質問が時津さんに寄せられ、非常に内容の濃いトークになりました。時津さんも時にはユーモアを交え、時には熱く答えてくださり、参加していただいた方には非常に有意義な場になったのではないでしょうか。

YOUTURNは今後もこのような取り組みを通じて、福岡で働きたい方、福岡で起業したい方を全力サポートしていきます。

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著者 YOUTURN編集部
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