【イベントレポート】福岡の起業家と語る会#2「健康を相互依存する」仕組みづくりで歯科業界のメガベンチャーへ
2011年のスタートアップ都市宣言以来、福岡ではベンチャーの機運が高まっています。早期退職やいわゆるスローライフではなく、新しい環境での成長やキャリアアップを求めて福岡に移住してくる人も着実に増えてきました。
ただ地方には課題があるのも事実。増え続ける医療・介護費をはじめ、さまざまな問題に直面しているのは福岡も例外ではありません。
そうしたなか2013年に創業した株式会社デンタライトでは、歯科医院向けのCRM『ジニー』とセルフケア・診療券アプリ『myDental』を提供し、歯科医と受診者のコミュニケーション改善や疾患の早期発見・早期予防に貢献しています。
福岡でメガベンチャーを目指すとはどういうことなのか、なぜデンタル業界なのか? デンタライト社CEOの藤久保 元希氏が語りました。
2018年10月10日(水)に開催した『福岡の起業家と語る会#2 人生100年時代の健康寿命に貢献する「デンタル業界のメガベンチャー」へ』の模様をお届けします。
<スピーカー>
◇藤久保 元希氏
株式会社DentaLight 代表取締役社長
鹿児島県出身。山口大学卒業後、2008年より福岡へ。広告代理店の企画営業やスポーツマネジメントの営業を経て、グロービス経営大学院福岡校で学び独立。2013年10月30日、株式会DentaLightを創業。セルフケア・診察券アプリ『myDental』や歯科医院向けの予約・CRMサービス『ジニー』などを展開する。
<モデレーター>
◇中村 義之
株式会社YOUTURN 代表取締役
2010年(株)みんなのウェディングに取締役として創業に参画。2014年、事業本部長として会社設立から3年半で東証マザーズに上場。2016年、株式会社YOUTURNを創業。人材、農業、ヘルスケアなど幅広い事業を立ち上げ中。
◇高尾 大輔
株式会社YOUTURN キャリアコンサルタント
ベンチャー企業の幹部採用支援に特化したプロコミットにてコンサルタント、事業責任者を務める。2018年、株式会社YOUTURNにキャリアコンサルタントとして参画。(国家資格キャリアコンサルタント)
原動力は「東京に負けたくない」
―まずは、デンタライト社を起ち上げるまでのいきさつについて語っていただきました。
藤久保 元希氏(以下、藤久保):こんにちは、藤久保です。鹿児島県出身の34歳です。山口の大学を卒業した後、福岡市内の広告代理店を経て、2013年にデンタライトを創業しました。
独立するきっかけの1つになったのは、子どもが生まれたこと。
6歳と4歳の子どもがいるのですが、上の子が生まれた際、「この子が小学生になった時に自分は父親としてどうあるべきだろう?」と考え、起業という結論にいたりました。
もともと会社を起こしたいとは思っていたものの、なかなか決断できなかった中、子どもが後押しになったと思います。
あと、東京へ行けなかったというコンプレックスも大きいかもしれません。
僕が大学を卒業した2004年頃はいわゆる売り手市場。わりと就職活動がしやすい時期で、僕自身も東京のベンチャーで働きたかった。ただ、諸事情があり就活を辞めることになった。それならまずはいろいろな業種を知ろうと、福岡の人材系の広告代理店に入ったんです。
そうした経緯があるので、対東京というか「地方で就職したら本当にディスアドバンテージなのか?」「地方から東京に勝つことはできないのか?」という視点は常に持っています。それが今の事業を進めていく原動力にもなっていますね。
―起業するにあたって、なぜデンタル業界を選んだのでしょうか?
藤久保:広告代理店に入社して1年目にフランチャイズの歯科医院のプロモーションを担当して業界の内情をいろいろと知ったのですが、まず、マーケット自体が大きいということ。
日本にはコンビニの数を上回る約7万の歯科医院があり、健診医療だけの金額でも約3兆円にのぼります。当然、院同士の競争も激しく、ある歯科医院はリスティング広告に毎月100万円の予算を使っていました。その運用費だけでも相当ですよね。これはビジネスチャンスがあるのではないかと。
もう1つは競合の少なさ。デンタル業界に参入しているのは家族経営を含む中小企業がほとんどです。なかには300万円で歯科医院のホームページを請け負って、完成したらあとはノーメンテナンスで放置、といういい加減な会社もあります。しっかりとした基盤とビジョンを持つIT企業が参入していない分、勝つ見込みがありました。
もちろん医療業界に携わる以上、社会に貢献していくという想いは持っていますが、会社を起ち上げるにあたって、まずは勝てるフィールドを選んだというのは理由ですね。
「健康」にコミットした転換点
―2013年に創業したデンタライトは歯科医院向けのCRM「ジニー」によって成長を続け、2018年には複数のファンドや個人投資家からの資金調達に成功したことで大きな話題になりました。ただ、創業当初から順風満帆だったわけではないようです。
藤久保:具体的に何をやるか決まったのはここ1~2年くらいです。創業してしばらくの間は歯科医院のコンサルティングをしながらいろいろなビジネスプランを探っていました。
そのうえで課題になっていたのが、一緒に働くメンバーの動機付けの部分。同じ医療でも、たとえば会社のミッションとして「ガンに立ち向かう」と言えばわかりやすくい社会貢献の意義感じられモチベーションにつながります。
しかし、デンタル業界は治療としての医療から「予防医療」へのシフトが進んでいて、歯科の予防医療にはそうした派手さはありません。
そのうえサービスもプロダクトもノウハウない状態で、「なぜデンタルなのか?」メンバーになってほしい方を説得するのは非常に難しかったんです。実際に最初のエンジニア、今のCTOですが、彼を採用するまでには創業から3年かかりました。
―何が転換点になったのでしょうか?
藤久保:デンタライトが社会へ提供するバリューとして、あらためて「健康」へコミットしたことです。
事業としてはSaaS(※1)の開発ではありますが、たとえば「ジニー」にしても、患者さんへ予約日をリマインドすることによってキャンセルを減らし、歯科医院の機会損失を減らせる一方、患者さんにとっても予約を忘れず定期的に通い続けられれば健康維持につながります。
ITの力で歯科医院の経営をアシストしつつ、「健康」にもコミットしていくという方向性を定めたことで、エンジニアをはじめとするメンバーとの一体感が得られるようになりました。
※1 ……Software as a Service。必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア。
健康を相互依存する仕組みで時価総額1兆円企業へ
―デンタライト社は時価総額1兆円突破を事業の目標として掲げています。藤久保さんによれば、その目標を達成するうえで欠かせないのが「健康を相互依存する」仕組みづくりです。
藤久保:相互依存とは、ドクターから患者さんまで医療に関わるすべての人がそれぞれ自立したうえでお互いに支え合うこと。
今の医療では病院や薬局、クリニックにいたるまで患者さんの情報をきちんと共有しているとは言えません。それは患者さん側でも同じことで、たとえば親の病気にしても、ほとんど場合は親から直接伝えられて初めて知るというのが現状だと思います。そうした現状を変えて、健康情報に能動的にタッチできる仕組みを整えていきます。
具体的な施策としては、今年「myDental」という診察券アプリをリリースしました。
「ジニー」と連動し、アプリを見せるだけで歯科医院の受付を済ませることができるうえ、次回予約日を知らせるリマインド機能や医院からのお知らせ機能、歯の健康と治療法について学べるコンテンツも搭載しています。リリースから加速度的にユーザー数が伸びており、現時点で6,000人を超えました。
今後はさらにアップデートを重ね、子どもが歯医者に行ったかどうか親がアプリ上で確認できる機能なども追加していく予定です。
さらにエンドユーザー向けのサービスとして、スマートインプラントの開発も視野に入れています。
唾液の量や食事の際に噛む回数といった歯の健康にまつわるデータは、現状ではスピーカーなどを使って拾っているのですが、チタンのインプラントにセンサーを埋め込めば直接取得することができます。技術的には決して不可能ではありません。
1兆円を目指すという目標については、健康を支える仕組み、つまりエコシステムをつくる会社である以上、それくらいの規模であって然るべきと考えているからです。BtoBの「ジニー」を基盤としつつ、カスタマー向けのサービスもどんどん拡充させて福岡初の時価総額1兆円企業を目指します。
福岡への強い想いが成長のドライバー
今回のイベントでとりわけ印象に残ったのは、藤久保氏の福岡という場所への強い想い。ご自身でもおっしゃっていたように、「東京には負けたくない」「福岡からメガベンチャーを生み出したい」という強い想いが加速度的な事業の成長につながっているのでしょう。
藤久保氏の熱く気さくな人柄も影響し、参加者の皆さんからの発言も多く、インタラクティブに会は進みました。
懇親会でも、多くの会話がなされ、とても有意義な時間になったようです。
YOUTURNでは今後も今回のような取り組みを通じて福岡へ移住したい人や福岡で起業したい人をサポートしていきます。次回もお楽しみに!