仕事がないから東京へ。でも帰ってきた福岡には、キャリアを活かせる場所があった
地元に戻りたいけれど、やりたい仕事がないかもしれない。それはUターンを考える人が誰しも悩むことだと思います。
株式会社しくみデザインの小方さんも、「福岡には希望の職がなかったから東京に出た」そうです。
上京し転職サイトの運営やニコニコ動画のディレクションに関わりながら、いつかは福岡に戻ろうと考えていました。約8年の東京生活の後、小方さんがどのようにUターンを果たしたかを伺います。
転職サイト運営からニコニコ動画へ
ー福岡市出身の小方さんは、地元愛が強く就職も福岡の企業を希望していました。しかし思うような求人がなく、いったん外に出て経験を積むことに。
福岡が好きで出る気がなかったので、大学も北九州に通いました。そこを選んだ理由は、比較文化学科という面白そうな学部があったからです。もともと映画やテレビなどエンタメが好きで、色んな人を楽しませるコンテンツを作ってみたいと考えていました。
比較文化学科なら、様々な側面から文化を見ることができ、将来の仕事にも活かせそうだと思ったんです。ゼミの専門はメディア学でした。
大学では、就活支援の雑誌を制作しているサークルを手伝っていました。もの作りが面白かったので、3年生から編集長になりイベントの企画なども手がけました。
このまま福岡で就職しようと思っていたものの、いざ就活してみると事務職や営業職の募集しかなかった。好きなもの作りだったり、たくさんの人に見てもらえるようなメディアの募集はありませんでした。それなら、20代のうちは東京に出て経験を積むのもいいかなと。
漠然とですが、誰かの人生に影響を与える仕事がしたいと思っていました。結婚でも不動産でも、人の契機に関わる仕事ってやりがいも大きそうですし。それで福岡の説明会に来ていた、株式会社キャリアデザインセンターに就職することにしました。
人材系の会社だから転職という契機に関われるし、たまたま同じ大学出身者が多く働いていて、ご縁を感じました。
入社後、女性向け転職サイトの運営チームに配属され、Webディレクターとして4年働きました。メンバーが少なかったので、訪問者を増やすためのマーケティングからページデザイン、リアルイベントの企画までひと通り経験しましたね。
入るまでプログラミングの知識はゼロだったんですが、HTMLの書き方などをここで学ぶことができました。
3年が過ぎたあたりから、自分の本当にやりたいことは何かを考え始めました。転職サイトって人生の契機ではあるけれども、長いお付き合いのできないサービスだなと思っていて。
ユーザーに愛され続けるサービスに関わってみたいと探した結果、株式会社ドワンゴに転職し、ニコニコ動画の運営に入りました。
ー前職とはまったく違う業界に飛び込まれたんですね。
新しいことが身につくからいいなと思ったんです。最初の2年は、ニコニコ動画を長く使ってもらうためにどういうコンテンツを見せていくか、どこに発信していくかを考える、Webディレクター兼プロモーションの仕事をしていました。
ディレクター業務は、基本的に前の会社でやっていたことと一緒です。ただ転職サイトと違い、ずっと愛着を持ち続けてもらう方法を探すのが難しかったですね。
ニコニコの歴史や文化を理解しないと刺さるものは作れないですし、やったことが裏目に出て嫌われる可能性もある中で、ユーザーの期待にどう応えていくかを常に考えていました。
2年経った頃、急に開発チームのディレクターを任されることになりました。仕事内容がガラッと変わり、新しいことを学ぶつもりで1年やってみたんですが、あまり楽しいと思えなくて。
本当にやりたいことはこれじゃないと感じたんです。それに、転職の大きいチャンスは30代に入る前が最後かなとも思いました。そろそろ福岡に帰ってもいい頃だろうと。
上司に「やった方がいい」と背中を押され転職
ー福岡への転職を考えた小方さんは、YOUTURNに登録。メディア中心のキャリアだったため、面談でも「東京の経験を活かす仕事は、福岡だとなかなか巡り合えないかも」と言われていました。しかしそのわずか2週間後、心を動かす出会いが訪れます。
今年の始めにYOUTURNに登録したんですが、転職を急いではいなかったので「いい会社があれば話を聞こう」ぐらいに考えていました。その2週間後、YOUTURN主催の座談会で、しくみデザインが東京に来たんですよ。
選考ではなくブレスト会をすると聞き、気軽な気持ちで参加しました。そこで代表の中村俊介さんと創業メンバーの中村哲尚さん、2人の話を聞いて興味がわきました。
遊びながらプログラミングが学べる教育アプリ「Springin’」(スプリンギン)というプロダクトも面白かったし、それを使ってやりたいこととか、こういう世の中にしたいという話がすごく分かりやすかった。
しかもちょうど、マネタイズやユーザーを増やすための人材を探していると。それを聞いて、ユーザーに向けてどう届けるかを考えることは、自分にとってすごく楽しい仕事だと改めて気づきました。
いつか私もそういう仕事ができたらいいなと思っていたら、しくみデザインさんの方から「よかったら来ませんか」と声をかけて頂きました。「ぜひ面談させてください」とお答えして、そこからはスムーズに進みました。
今年の2月頭に面談し、1週間後ぐらいに採用のご連絡を頂きました。当時の上司にも「今、地元の企業からこういう話が来ていて」と相談したら「やりたいと思っているなら絶対そっちに行った方がいい」と言われたんです。
ああ、客観的に見てもこのタイミングの転職って間違ってないんだと背中を押されました。
前職で携わっているプロジェクトが4月半ばまであったので、それをやり切るために少し待って頂きました。4月末に退職し、5月に福岡に来ました。
作り手とユーザーの思いをつなげたい
ー現在、しくみデザインで働き始めて2週間ちょっとの小方さん。前職とは会社の規模も扱う商品も異なりますが、これまでの経験が活かせそうだと感じています。
来たばかりなので、今はプロダクトのアプリを触ってサービス理解をしているところです。これまで、しくみデザインは子どもから大人まで幅広いユーザーを対象としてきました。
しかし「Springin’」は教育分野に入って行こうとしているので、主な対象は子ども達です。そこには、今まで関わってきた層とはまた別の文化があります。
「Springin’」はプラットフォームでもあるので、アプリの中で子ども達同士のコミュニティにどういうルールがあるかを、つかんでいる最中ですね。彼らの文化の中で、一体何をしたら喜んでくれるかなと考えています。
前職の経験が役に立ちつつ、ターゲットはどんどん変わっているので面白いです。
これまで人数が少ない中で「Springin’」を扱ってきて、今ちょうど人が増えているところなので、チームの運用ルールや外注するためのルールを決めようとか、そういう整理もしています。
ーしくみデザインに入って、チャレンジだと思うことはありますか。
とにかく、やるべきことがたくさんありますね。前職は大きい会社で人数もいたので、私が見逃している部分はキャッチアップしてもらえました。でも、ここはメンバーも少ないし、運営目線で見られる人が限られている。
人任せにはできないので、自分が気づける部分はちゃんと拾い上げ、それをどう企画に活かすかまで慎重にやる必要があると思っています。
作り手が「Springin’」をこうして行きたいという思いと、ユーザーに求められている部分をうまく調整して、より多くの人に愛されるコンテンツに育てたい。
それぞれの思いの中間地点にいるポジションって、名前はないけど会社に必要だと思うんです。そこをうまくできる存在になりたいです。
覚えることはたくさんありますけど、東京より通勤時間は楽だし、仕事以外のところで邪魔されないのがすごくいいですね。生活もしやすくて、地元にいる安心感は大きいです。
<執筆後記>
福岡で思うような仕事がなく、いったんは東京へ出た小方さん。帰ってきた時に見つけたのは、それまでの経験が活かせる「名前のないポジション」でした。
転職に至るまでに、キャリアプラン、年齢、福岡に戻るかどうかなど、語り切れない悩みがあったと思います。
しかし、東京で働きながら「やりたいことは何か」を考え続けた結果、巡ってきたチャンスを逃さず転職することができました。
小方さんのように「いつかは福岡に帰りたい」と思っているなら、少しアンテナを伸ばして行動してみると良いのではないでしょうか。