農業を憧れの仕事に! 商社で経験を積んだ農家の息子が地元から仕掛ける恩返し

私の移住転職ストーリー
08/13/2019 更新

転職を考える際に、今の仕事の業務内容や持っているスキルの延長線で次の仕事を選ぶ方は多いのではないでしょうか。「自分が行ってきた仕事であれば転職後も会社に貢献できる」と考えるのは納得できます。

しかし、自分のキャリアの棚卸しができていれば、必ずしもそれまでの業務経験の延長線で探さなくても、いい転職ができるもの。東京から福岡に移住転職した田島さんも、異業界に転職を果たしながら、変わらない志を持ち続け仕事をしている1人です。

以前は東京の総合商社で穀物のトレーディングをしていましたが、今や福岡でビジネスコンサルティングを行っています。
「農業で稼げる人を増やしたい」そう語る田島 大地(たじま だいち)さんに、移住転職の背景と、志に目覚めたきっかけについて聞いてみました。

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「実家が農家」原体験が生んだ志

ーー福岡県筑後市のいちご農家で生まれ育ち、九州大の農学部に進学した田島さん。研究室では穀物の品種改良や遺伝子組み換えの研究をしていましたが、新卒で入社したのは東京の総合商社である兼松。

就活では様々な会社の内定をもらった田島さんですが、商社を選んだのにはある理由があったようです。

▲有限責任監査法人トーマツ 田島 大地(たじま だいち)さん

(以下、田島さん)
私は実家がいちご農家で、周囲も田んぼだらけという環境で育ちました。農業をしている両親を見て育ったので、自然と私も農業が好きだったんですね。しかし、同時に「農業で稼いでいくのは簡単ではない」という現実も目の当たりにしてきました。

今でこそ「アグリビジネス」という言葉が生まれ盛り上がりを見せており、農業も注目される産業になってきています。しかし、当時農業は稼げない仕事の一つになっていることにとても危機感を感じていました。そこで私は「農業をビジネスにできる人間になりたい」と思い、農業×ビジネスというテーマで就職活動を始めたんです。

就職活動では様々な業界の会社の採用試験を受けました。種苗会社(※1)や業界特化のコンサルティング会社など、農業に関われそうな会社を中心に受けましたね。最終的に商社を選んだのは、世界を舞台に仕事ができて「モノを買って売る」という商売の基本を学べると思ったからです。

特に商社の中でも兼松はその基本を大切にしつつ成長している会社で、自分のやりたい事も人の雰囲気もマッチしていると思い入社しました。

※1……種苗(しゅびょう)会社。種苗メーカー、種苗卸会社、種苗小売店の3種類から成る

ーー農業を軸に幅広い業界で就職先を探していた田島さんでしたが、場所は東京に絞って会社を探していたそうです。それは福岡を愛している故の選択でした。

いつか福岡に戻って九州のために働きたいと思っていたんです。しかし、地元の力になりたいからこそ、東京に出なければいけないと思いました。生まれ育った福岡しか知らない人間のままでは、できることも限られてしまうからです。「東京で経験を積み、力をつけて福岡に戻ってきたい」と思い、東京の会社に絞って就職活動を行いました。


ーー見事東京で内定を勝ち取った田島さん。商社ではどのような仕事をしていたのでしょうか。

私はコメや麦といった穀物のトレーディングや、パスタや蕎麦などを海外から輸入し、国内で販売する仕事を計6年間行っていました。

商社というと、数字と向き合ってスマートに仕事をしているイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、みなさんが思っているよりも泥臭い仕事もやっていました。名前も知らないような海外の地方都市の空港に行き、そこから車で何時間もかかる場所に商談にもよく行きました。

約半年間のインドネシアへの短期駐在時には、新規事業を考え本社に提案したこともあります。結果的に当時は事業化には至りませんでしたが、常に自分で新しいビジネスを立ち上げるチャンスを伺っていましたね。

「いつか自分で事業をするのも面白そう」と思ってはいましたが、具体的な構想はありませんでしたし、今こうしてコンサルティングの仕事をするとは思っていませんでした。

運命の出会いから4年。遂に転職

ーー商社からビジネスプロフェッショナルファームへと業界を跨いだ転職を果たした田島さん。今はどんな仕事をしているのでしょうか。

現在はビジネスプロフェッショナルファームで、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社と連携して、主にベンチャー企業の成長をサポートする部署で働いています。特に農業系ベンチャーに関わる案件には積極的に関与しており、その他にも九州各地の自治体との創業関連の案件に携わったり、スモールビジネスの立ち上げ支援なども行ったりしています。なので、一緒にお仕事させていただくのは、最新の技術を使ったベンチャー企業もあれば、自治体の方、地元の特産品を使ったスモールビジネスを考えている方など幅広いですね。

相談される内容も提供する情報も多岐にわたるので、日々勉強・情報収集は欠かせませんし、一緒に仕事をさせてもらった方には少しでも価値を感じてもらえるように努力しています。

ーー穀物のトレーディングとベンチャー企業の支援では全く業務の内容も違います。大胆な転職の背景には何があったのでしょうか。

実は今から4年くらい前に、福岡県が主催している「よかとこビジネスプランコンテスト」に応募したんですよね。結果は全然ダメでしたが、そのコンテストの運営に関わっていたのが今の会社だったので、その時から担当者の方とお付き合いはさせてもらっていました。

そして商社に入って4年目の頃、転職を考えて今の会社に、一度採用試験を受けたことがあるんです。その時は公私ともに折り合わず、結局転職はしませんでした。しかし、今回はタイミングがよかった事もあり、無事に採用していただくことができました。4年間、地道に自分を売り込んだ甲斐がありました(笑)。


ーー田島さんはコンサルティング業務の未経験者。商社での業務経験がそのまま活かせるわけではないでしょう。スキルや経験ではないとしたら、転職先の企業側からすると、田島さんの何に惹かれたのでしょうか。

一つは私に「農業」という軸があったからだと思います。今の会社も九州においてビジネスとしての農業のポテンシャルは高いと思っていたようで、ここを担う人材を求めていたので、うまくマッチングしたんでしょうね。

また、今の会社が大事にしているものに「原体験」という言葉があります。ただ「なんとなく好きでやりたいから」ではなく、原体験があっての「やりたいから」は想いが強く、「心から解決したいかどうか」に深く影響してきます。特にベンチャー企業の経営者と接していて強く感じますが、原体験を持っている方は辛い時も前に踏み出すことができるんです。

私は農家の家で生まれ育ち、大学院まで穀物の研究をし、商社では世界中の穀物業界を見たことによって、日本の農業界に強い危機感を感じています。これはまさに私の原体験です。そんな原体験から生まれる「農業を稼げる・誰もが憧れるような仕事にしたい」というビジョンが今の会社に響いたのだと思います。

また、商社で培われた「仕事を前に進める力」も評価してもらえたのかもしれないです。表面上のスキルしか見てくれない転職エージェントだったら、商社から今の会社への転職は勧めてくれないでしょうね。

ですが、商社の仕事は規模も大きく、関わる人も多い上に、商品を動かす仕事なのでトラブルも起きやすいです。全体を見ながら様々な調整を行い、仕事を前に進めてきた点はこれからも活かせる、と評価してもらえたのは嬉しかったですね。

その経験と農業への想いが、全く業界の違う今の会社に入社できた理由だと思います。


ーー転職と同時に移住も経験している田島さん。福岡は地元とはいえ、福岡で仕事をするのは初めての経験です。東京との違いは感じるのでしょうか。

地方に来て気付かされたのは、コミュニケーションの重要性ですね。よく東京は「価値経済」なのに対し、地方は「信用経済」で成り立っている、と言われます。東京では、モノやサービスにお金を払う時に、自分にとってどれだけ価値またはメリットがあるかで判断する人が多い一方で、地方では、価値の有無だけでなく、それを信用できる人が薦めているかどうかも重要な判断材料とする人が多いと思っています。

私も仕事をしている中で、当然ロジカルな思考は非常に重要なのですが、さらに重要になるのが人の感情や情理だと思っています。正しさや効率性だけでなく、相手の気持ちや置かれた立場を理解しながら仕事を進めて行くことや信用を築くことは大切です。その点では、業界は違っても商社時代に培ったスキルが活きていると思います。

九州を誰もが「憧れる街」にすることが地元への恩返し

ーー「いずれ福岡に帰って地元のために働く」と東京に出た田島さん。東京での仕事の経験を福岡で活かしていることを考えれば、その目標は叶えられたとも言えます。まだ福岡に帰ってきてから間もないですが、これから福岡で何を成したいのか聞いてみました。

将来的には九州、福岡で働いていることが、みんなの憧れになるようにしたいですね。福岡は今、将来有望なスタートアップもどんどん生まれており、優秀な人材もたくさん集まってきています。しかし、正直なところまだ東京との差は大きいと思います。

しかし、将来的なことを考えた場合、ビジネス面でも東京より福岡の方が優っている点もあります。例えば、経済発展が著しいアジア圏であれば、東京よりも福岡の方が物理的な距離は近いです。ちなみに飛行機で福岡から東京に行くのと、福岡から上海に行くのはフライト時間的にはほとんど変わりません。今後はアジア圏に向けて日本の農産物の輸出も増えていくと思いますが、市場への物理的な距離が近いということは輸送面において確実にアドバンテージになります。

また農業ベンチャーの拠点としても、福岡は東京よりも環境がいいです。都市部近郊に田んぼも山もあるため実証実験も行いやすいですし、九州という視点で見ても多種多様な農産物から畜産物まで生産することができます。業界にもよりますが、「東京でなければならない」「成功したいなら東京」ということはなくなってきていると思います。


ーー福岡を出る時から持っていた地元愛に今でも変わりはないようです。地元のビジネス支援をしている田島さんだからこそ見える、福岡の仕事のしやすさがあるように感じました。これからどのようなことを成し遂げたいですか。

これまでお話ししたとおり、日本の農業界を九州から盛り上げていきたいという気持ちはありますが、それに加えて日本が大学や高専などアカデミックな部分でもっと世界と勝負していけるようになればいいなと思いますね。

私は学生時代に大学院まで研究を行っていましたので、そういった経験も生かして九州の大学発ベンチャーの創出にも積極的に関与していきたいと思っています。個人的には、特に当時研究をしていた穀物の分野は、今後も世界的に注目される分野だと思っていますが、それ以外にも日本の大学や高専などにはビジネス化できる種が眠っていると思うので、そういった部分からも九州を盛り上げていきたいです。

志を生むのは原体験

農業への熱い想い、地元への貢献。田島さんのこれまでのキャリアはその2つに集約されています。

「キャリア」の語源は「車輪の轍(わだち)」。

つまり、前にできるものではなく、自分が歩いてきた後ろにできるもの。田島さんはこれまで歩んできた道に、しっかりと自分の生き方、生き様を表してきたように感じます。

その足跡があったからこそ、スキルがなくても、経験がなくても新しい道が開けたのではないでしょうか。

原体験を持っている人の生き方は一貫しているように感じます。そして、原体験は本来は誰もが持っているもの。持っていることに気付いている人と気付いていない人がいるだけではないでしょうか。

自分の原体験に気付くために、本気で生きてみようと思わされる取材でした。
(執筆:鈴木 光平)

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著者 YOUTURN編集部
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