福岡発のテックベンチャーのIPO準備を牽引|Fusic代表納富さんx小田さん
YOUTURNを通じて2020年にFusic(フュージック)への移住転職を果たした小田さんは、福岡に本社を構える株式会社FusicにおけるIPO(新規株式公開)準備のコアメンバー。
Fusic社長の納富さんと小田さんに、IPOを見据えた採用を実施した当時の状況や小田さんがFusicを選んだ決め手、上場を経た今描くFusicの今後についてお話を伺いました。
スピーカー:
納富貞嘉さん(株式会社Fusic 代表取締役社長)
小田晃司さん(株式会社Fusic 執行役員 経営企画本部長)
高尾大輔(株式会社YOUTURN 代表取締役)
IPOを見据えたCFO候補の採用条件とは
――小田さんが東京の大手企業からFusicへ移住転職を決めたのは、YOUTURNの会員登録からわずか2か月後のことでした。まずは採用側の納富さんから、スピード決定の経緯をお聞かせください。
納富:2023年3月に会社を上場させようと決めており、管理部門を統括するCFO候補を探していました。小田と出会うまでに、候補者20数人と面接したと思います。皆さん立派な経歴の方々でした。
当初、私がCFO候補/IPO責任者に求める条件はいくつかありました。最も重要視していたのは「会社にカルチャーフィットするか」です。これが無いと採用の俎上にはのりません。上場を目指す会社にCFOクラスの人材が入り、組織が崩壊するような事態は避けねばなりません。少しずつ会社になじんでくれるか、会社の皆もきちんと受け入れてくれるかは必要条件でした。
次に「能力」、続いて「IPO経験」と「マネジメント経験」です。でもすぐに、全てを満たす人はそうそういないとわかりました。加えて、比較的若い人が理想だと思っていたので厳しかったですね。特にマネジメント経験も求めると、どうしても年代や業種が限定されてしまいます。それで4つの条件のうち「カルチャーフィット」と「能力」の2つに絞ったところで、高尾さんから小田を紹介されました。
――YOUTURNのキャリア面談で小田さんに初めて会ったときの印象はいかがでしたか。
高尾:小田さんは公認会計士の資格を持ち、30代前半にして東京で輝くキャリアを積んでいました。
「いずれは九州に戻る」と迷いがなく、腹から決めている印象でしたね。ご自身のキャリアも、税理士法人から保険会社を経て政府系ファンドと、多くの公認会計士が選ばない道を躊躇なく選ぶ、生存戦略もわかっていると感じました。
加えて、次のキャリアとして事業会社のCFOを考えていると。それも「上場屋」と呼ばれるようなCFOではなく、上場後も会社と一緒に成長する経営人材になりたいと言うんです。人生にもキャリアにもしっかりとした軸があり、30代前半でここまでのキャリアイメージを描ける人は珍しいと思いました。
実は、納富さんから「Fusicの上場を考えている」と社外で初めて聞いたのは私(YOUTURN)です。「私が聞いちゃっていいの?」と思いましたが、そのなかでCFO候補を探していると聞きました。
納富:当時はまだ、社内でも一部の人しか知らない話でした。上場できない可能性も踏まえると、あまり早く宣言して社員を焚きつけるようなことはしたくなかったんです。
高尾:最初は納富さんが求める4つの条件に合う方を紹介していましたが、なかなかしっくりこない様子だったんですよね。上場にはプロの知見も必要だけれど、上場のプロというのもあまりFusicらしくないのでは、と悩んでおられる様子でした。
そこで改めて、納富さんと条件のすり合わせをしました。カルチャーフィットと能力は必要条件として、IPOについては「経験者ではなく、未経験だけどチャレンジできる人材を探しましょう」と。
間もなく小田さんがYOUTURNに会員登録。お話しするなかで、「このサムライにはFusicが合う」と感じてご紹介しました。
小田:高尾さんからは「とりあえず、話を聞いてみませんか?」と言われて、納富とオンラインでカジュアル面談をしたところ、「で、いつ来れる?」って(笑)。コロナ禍だったこともあり、車で東京から福岡へ行って面談し、他のマネジメント層の人たちとも意見交換しました。
納富:カルチャーフィットと能力は、高い水準を満たしていると感じましたね。
――納富さんの第一印象はいかがでしたか。
小田:「推進力がすごい人」です。それがオンラインからも伝わってきて。私が接してきた大企業の上層部の人たちとは違うエネルギーを感じました。
でも、その時点では入社するともしないとも考えないニュートラルな気持ちでした。ただ、「実際に会ってみないとわからない」と思ったので、福岡まで直接会いに行って良かったです。
――その後、納富さんをはじめFusicのメンバーと会ってから入社を決めるまで、葛藤や不安はありましたか。
小田:正直不安は大きかったです。大学から16年近く過ごした東京とのつながりを物理的に断つことには勇気がいりました。
それまで大手企業でキャリアを積んできたので、ベンチャーへの移住転職はリスクテイクでもあります。加えてIPOは難易度も高く失敗する可能性もある。自分のなかで葛藤はありました。
Fusicを選んだ最後の決め手は、「失敗しても後悔しない会社かどうか」ですね。万が一IPOに失敗したとしても、この会社を選んだことを後悔しない。自分のなかでそう思えたので入社を決めました。
自由とガバナンスのバランスを整える役割
――入社後の印象はいかがでしたか。
小田:今振り返ると、雑然とした状況だったかも知れません。ちょっとカオスな感じでした(笑)。コーポレートなどのバックオフィス業務が仕組み化されていなかったんです。
通常、大手企業には業務マニュアルがあり、それに基づいて仕事ができるようになっています。
当時のFusicにはマニュアルなどはなく、担当者に聞くしかありませんでした。でもベンチャー企業ですから、当然ですよね。
属人化の極みというとネガティブに聞こえますが、その推進力がFusicを大きくしてきたわけだし、属人化をどう解消していくかが自分のミッションだとも感じました。
――IPOまでを振り返って、苦労したことは何ですか。
小田:社内で自分のスタンスをどこに置くべきか、それを考えるのが大変でしたね。IPOに向けてはさまざまなルールを敷く必要があり、管理部門の責任者はブレーキ役でもあります。
でも、ブレーキが強すぎると、アクセルが強い成長企業ほど破綻しかねません。そのバランスを取るのに苦労しました。
私自身にIPOの経験はありませんでしたが、幸いなことに前職のつながりでベンチャーの経営者の話を聞く機会がありました。先輩経営者の話を伺う中で、「なるべく従業員の意見を尊重したいけれど、あまり優先しすぎるとIPOがうまくいかなくなる」と。
納富:小田がFusicを選んだときの基準「失敗して後悔しないか」は、私自身が起業したときの考え方と近いと感じました。
社内のブレーキ役として、小田はとても大変だったと思います。私も共同創業者の浜崎(取締役副社長)も、学生時代に起業しています。いわゆる会社の規定や予実管理などが皆無のところからやってきたので、当社で社内の仕組みを整えるのは苦労したと思いますね。
私たちが小田の理解者として、エンジニアたちへの働きかけができればよかったのですが、逆に私たちが抵抗勢力になっていた可能性もあります(笑)。
小田:確かに大変でしたが、他社のIPO経験者と比べると私はラッキーだったと思っています。
Fusicのメンバーは、バランス感覚がいいんですよね。従業員も経営陣も、「やりたくないけれど、必要性があると腹落ちすればやる」人たちがそろっていると感じました。話せばわかるという信頼感は大きかったです。
――振り返ってIPOの準備とは、どんな仕事なのでしょうか。
小田:難しい質問ですね。あくまで私の感覚ですが、IPO準備は「荒野に街をつくるようなもの」だと思います。
上場会社には、さまざまなルールが必要です。誰が業務にあたっても組織がきちんと回るような形にする。上場会社に求められる継続性を担保するには、属人的でいては難しいんですね。チームの誰が担当しても仕事ができるような仕組みや、業務の型づくり・言語化を進めるのがIPOの準備だと思います。
――もともとFusicは、エンジニアがのびのびと働けるようなフラットな組織で、業務で使用するパソコンのOSもバラバラだったと伺いました。IPOで継続性のための仕組みを整えたり、属人化を排したりするのは難しかったのではないでしょうか。
小田:難しかったですね。やりすぎると研究と業務の自由を奪いかねません。自由な部分を残しつつ、統制をきかせるポイントを、社内で対話を重ねることで探っていきました。上場会社として許容できるかどうかは、証券会社をはじめ関係者との調整が必要です。管理部門は、社内外のハブとして動くものだと実感しました。
納富:自由と統制については、私も社内に向けて発信したことがありました。メッセージは、「性善説でやっていこう」。ここでの性善説とは、「皆がいい人」ではなく、「一定の悪いことが起きたとしても、いいことの方が上回っていく」という意味合いです。
加えて、「ルールは少なく」とも考えていました。IPOは性悪説のところがあり、不正が起きないような仕組みづくりが求められるため、どうしてもルールが増えてしまいがちです。
小田はそのはざまで本当に苦労したと思います。私自身は、ルールが増えたこと自体には腹落ちしています。増えたルールが、従業員を守るためのルールでもあると理解したからです。小田が自身の頑張りを背中で見せてくれたり、ルールを作る意味も含めて社内に発信してくれたりしたことが大きいですね。社内のメンバーのベクトルも一気に合いました。
IPOからの学び
――IPOに対する感想を聞かせてください。
小田:IPOはよくできたプロセスだと感じました。上場会社のCFOは管理責任者であり、最終防衛ラインです。組織によっては嫌われ役になることもあり、実際に嫌われ者として君臨する人もいますが、私はピンときませんでした。
私は、最後の砦として会社と対立するよりも、CEOの壁打ち相手になろうと思ったんですね。CEOと逆の立場でディスカッションすることで、会社を成長させる夢を一緒に追いたいと考えました。
そのためには会社を深く理解して、必要なルールの本質をとらえた上で経営陣とディスカッションしなければなりません。そこまでやって、何か起きたら責任を引き受ける。CFOとしての胆力が、IPOを通して備わったように思います。
上場会社とはどうあるべきかを理解して、「理想を追い続ける」という姿勢を東証も見抜いてくれた気がします。事実、IPOでの審査官とのディスカッションを通じて、理想を追い続けることを忘れてはいけないと学びました。
納富:IPOは優れたプロセスだと感じます。審査を通じて成長の機会を得たと思いますし、経営者としての視座が上がり、会社が強くなっていく実感がありましたね。IPOにチャレンジし、上場を達成することができて本当によかったです。
――従業員の皆さんに何か変化はありましたか。
小田:ルールが敷かれていくことに当初は抵抗していたメンバーが、上場後に「やってよかったと納得している」と声をかけてくれました。その変化が嬉しかったです。
納富:社内にはいろんなメンバーがいます。小田を中心に、IPOに深く関わった人や、ある程度関わった人、ルールができればそれに従う人。その多様な感じがFusicらしくていいと思っています。
意外だったのは、上場後のパーティーで皆が一様に嬉しそうだったことですね。喜ぶ従業員を見て、上場してよかったと思いました。
福岡の地で、好奇心とバランス感覚を持ち成長し続けるFusic
――上場され、今後はどのようなことに取り組んでいかれますか。
納富:まずは採用ですね。まだまだ一緒に働いてくれるメンバーを増やしていきたいです。
もともとFusicを創業したのは、福岡に面白い人たちが集まって切磋琢磨する場ができれば嬉しいと思ったからです。上場をひとつのきっかけとして、どんどん魅力的な人が集まり、福岡が盛り上がればと思います。
今でも「福岡は、住むにはいいけれど働く場所としてはどうなのか」と考える人はいます。住みたい場所と働きたい場所を一致させようとするときに、福岡のFusicが選択肢になれればいいですね。
FusicがIT企業として存在しているのは、ITが面白いからです。将来的には宇宙事業や量子コンピュータ領域の研究開発も手がけていきたいし、現在進めているプロジェクトもあります。変化が激しいIT業界に身を置きながら、その時々で面白そうなことに資金を投入できる状態にしておきたいです。
韓国や中国に近いという福岡の地の利を生かし、海外展開も視野に入れています。現時点で従業員の1割ほどが海外人材ということもあり、いずれチャレンジしたいですね。
――これまでよりも多様なバックグラウンドの従業員や、手がける事業を増やすということですね。そのために社内の仕組みをどう整えますか。
納富:タスクフォースチームを作り、人事評価制度を見直し中です。ひとくちにITといっても、自社プロダクトの研究開発や顧客のDX展開などがありますし、従業員もエンジニアや営業、管理部門など多岐にわたります。
100%の正解はありません。制度設計と運用を繰り返しながら、改善し続けるものだと思っていますし、Fusicはそれを柔軟に進められる会社だと自負しています。
――「Fusicのカルチャー」をどうとらえていますか。
小田:まさに私がいま、採用面接で苦労しているところです(笑)。個性を大切にする会社だけに、言語化が難しいですね。
今いるメンバーを考えると、「好奇心」や「バランス感覚」がキーワードになると思います。趣味でも何でも、自分の好きなことがあり、新しいものや面白そうなことに対する好奇心の強さや行動力を持つ人が、Fusicにフィットするのではないでしょうか。
納富:キーワードをひとつ挙げるならば「好奇心」ですね。能力は後から伸ばせますが、好奇心は醸成が難しい。たとえばChatGPTが出たときに「面白そう」と使ってみる人と、特に関心を示さない人がいるとすると、Fusicには前者のタイプが多いです。
Fusic自体も変化していきます。その変化の波に乗ってみようという気持ちがあれば、楽しめる会社だと思いますね。
――小田さんの今後のキャリアについて聞かせてください。
小田:社内だけでなく、対外的にも「福岡にあるFusicのCFO」として認知されるのが目標です。そのためには発信力を高めたり、社外とのネットワークを構築したりしていきたいです。
私がIPO準備の時にたくさんの先輩経営者に助けていただいたように、他社の情報を取り入れて、よい部分を社内に還元することで、Fusicという会社を大きく広げていきたいんですよね。それを今いるメンバーたちと福岡の地で実行したい。
CEOとのディスカッションもそうです。納富も浜崎も本質的な問いをしてくるので学びが多いです。こちらも二人に対して学びを提供できるようなパートナーであり続けたい。
納富:会社を成長させるだけでなく、社外にもいい影響を及ぼす人になると面白いですね。Fusicだけでなく福岡を盛り上げるという視座を持ち、成長し続けてほしいですし、私自身もそうありたいと思います。
<編集後記>
IPOのプロセスは成長の機会であり、会社が強くなっていく実感を得たと語るCEOの納富さん。管理部門を統括するCFO候補として外部からジョインした小田さんが旗振り役となり、社内での対話を重ねて仕組みを整え、上場を果たしたFusic。「福岡全体を盛り上げる」という高い視座を持つ同社は、今後もたしかな成長を続け、世の中をアップデートしていきます。
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