福岡×ベンチャーで広がったキャリア。「結果的に、面白い人生になった」|KAICO代表大和さんx江崎さん
江崎さんは医薬品製造業での研究開発職の経験を経て、九州大学発のバイオベンチャー、KAICO株式会社への移住転職を果たしました。
入社から3年以上が経過。江崎さん、KAICO代表取締役の大和さんにYOUTURNの高尾が加わり、互いの第一印象や同社が描く“組織のあり方と次のステージ”、入社後に変化を遂げた江崎さんの存在感についてお話を伺いました。
「福岡への移住転職を通じてキャリア形成へのイメージに変化が起きた」という江崎さん。これから福岡への移住転職を検討される方にとって興味深いお話をお聞きできました。
スピーカー:
江崎 啓一さん(KAICO株式会社 Manager)
大和 建太さん(KAICO株式会社 代表取締役)
高尾 大輔(株式会社YOUTURN 代表取締役)
世の中で役立つものを、ダイレクトに生み出したい
ーー江崎さんは、2020年に会員登録された直後に、YOUTURNのキャリア面談を受けられています。江崎さんの第一印象を教えてください。
高尾:僕がお会いしてきた製薬業界出身の方は、専門性の範囲でキャリアパスを固めている方が多い印象があって、実を言うと、江崎さんに初めてお会いしたときはそんな先入観を持って面談に臨んだ記憶があります。
実際に江崎さんとお話してみて意外でしたね。専門性をしっかり積み重ねられた中にも柔軟性が垣間見える方で。キャリアについて前職よりチャレンジの余白のあるところを求めている印象でした。
江崎:元々、自分が作った商品を世の中に出すことに楽しさを感じていました。自分の手で作り出したもので世の中の人に幸せになってもらえる、そういう人の暮らしや人生をより良くするような物作りに携わりたいという価値観がベースにあったので、転職先が製薬業界でなくてもさほど抵抗はありませんでした。
地元の近くで仕事がしたいとは思い続けていたので、自身のライフプランを考える中でそろそろ戻らなきゃな、というタイミングでYOUTURNに話を聞いてみようと思いました。
KAICOの話を聞いたときは、自分の母校である九州大学でこんなことをやってるところがあったのかと興味を持ちましたね。実は大学で生態学の研究をしたかったくらい、種類問わず生き物が好きだったんです。
高尾:KAICO以外の企業は紹介していないですもんね。
江崎:一社だけでしたね。「KAICOがいいと思いますよ」と。
高尾:当時、大和さんから「九州の大学でバイオ系の学部があっても、新卒での就職先が九州にないからみんな県外に出てしまう」と聞いていました。
大和:戻ってきたい人がいたとしても「どうせ九州には就職先がないから無理だろう」というのが、県外に出ていったバイオ系の人たちの共通認識なんじゃないかなと思っていましたね。
ーーKAICOとお繋ぎする上で、高尾さんは江崎さんに「ぜひ大和さんの人柄に触れてほしい」と思ったとか。
高尾:大和さんがお持ちのキャリアの背景がとても面白くて。三菱重工という重厚長大な産業でキャリアを積み、一度起業して、さらに九州大学のビジネススクールに通われるなかで九大の技術をビジネスにしようとKAICOを創業された。このストーリーに経営者として非常に興味を持っていました。
これからチャレンジの幅を広げていこうと考えている江崎さんと、大和さんを引き合わせたら面白いことになるんじゃないかと感じたんです。
ーー江崎さんと大和さん、お互いの第一印象はいかがでしたか。
江崎:コロナ禍だったので初回はオンラインでの面談だったんですが、その後次のステップで大和さんに実際にお会いして、温かく歓迎してくれる方だなという印象を持ちました。大和さんは社員一人一人を非常に大事にされる方という第一印象は、入社して数年経つ今でも変わらないですね。
大和:KAICOは当時GMP(Good Manufacturing Practice)という医薬品水準の設備を作ろうとする段階で、対応できる人材を必要としていました。
江崎くんは現役の製薬キャリア、かつ九大出身です。転職理由もいずれは福岡に戻る必要があるとはっきりしていました。真面目そうできっちりとした印象を受けましたし、KAICOからするとすぐにでも来てほしい人材だと感じましたね。
ーーその時の印象と入社後で、ギャップは生まれませんでしたか。
大和:最初の印象通り、やっぱり真面目で少し固いところはあるなと。江崎くんは納得がいかないとなかなか首を縦に振らない性格なので(笑)。
大企業での考え方や働き方という枠から出るのは本人も大変だったと思います。でも、しっかりキャッチアップして今では独創的な動き方ができるようになってきたところは、良い意味でのギャップでしたね。
大企業からベンチャーへ。入社後の葛藤から見えてきたもの
ーー入社当初のKAICOの組織状況はいかがでしたか。
江崎:会社の従業員数は、今の半分以下くらいの人数だったかと思います。
大和:安定した立派な会社から、まだ創業2、3年目、数人規模のベンチャーに移るのは当然不安も大きかったでしょうね。
ーー大和さんご自身も大手企業のご出身だからこそ、江崎さんの心境が分かる部分があったのでしょうか。
大和:大手企業なら突然潰れることもなく、定年までは永続的に毎月給料がもらえる。仕事が面白いかどうかは別としても、「安定」は手に入ります。初めはそれを選択していたのにあらためて違った道を選択するのは、相応の思い切りや勇気が必要だと思います。自分を振り返ってもそうでしたね。
江崎:前職ではやり甲斐のある仕事をさせてもらっていましたし、大きな組織の一部として働くことに抵抗はなかったんです。ただ、自分が捉える世界をより拡大できるキャリアもあるのではと考えていて。大企業だけでなく、もう少しいろんなところに視野を向けたいなという気持ちはありましたね。
ーー大企業からベンチャーへ、実際に移ってから感じるところはありましたか。
江崎:KAICO入社後は、自分に足りていない能力について思い知らされることが多々ありました。
私より先にYOUTURNを通じてKAICOに転職した谷口さんをはじめ、周りのメンバーをみていると、多方面の領域で自分たちの技術をどう活かせるかを考え新しいものと次々にマッチングを試みたり、マーケットを的確に把握して、売れるためのストラテジーを考えたりと、とにかく幅広く勉強しながら仕事をされていて。
大和:脱皮するまでに半年ほどは時間がかかっているように見えましたね。大手企業で過ごした10年間は、与えられた方向性で結果を出すという働き方だったはず。逆に余計なことをする必要はなかったと思うんです。
一方、KAICOのようなベンチャー企業の場合は、必ずしも指示や方向性が明確なことばかりではない。江崎くんに限らず周りのメンバーも色々なことをやっていく中で、自身のポジショニングをどこに定めるかを彷徨っている期間はそれぞれにあったと思います。
江崎:自分も能動的に動けるようになりたいと思いつつも、明らかに足りていない部分だなと感じていましたね。
大和:江崎くんが変わるきっかけになったのは、豚用の経口ワクチンを将来的には横展開していくという話が出たタイミングなんじゃないかなと思います。彼が発した「魚でやってみてはどうか」の一言から、すべて自分で動いていくことになったんです。
研究に加えて、国の予算申請、試験計画から将来の構想まで考えながら動く。自分のそれまでの守備範囲内だけではなく幅広い動きを経験したことがきっかけで、一皮剥けたように感じます。
江崎:KAICOに来てからは、次々と新しいことを見つけて自分でチャレンジしていかないといけないんだなと実感しましたね。
足りない部分を認識できたことで、自分のもつ世界観を拡張することができたと解釈しています。結果的に、面白い人生になったなと思えます。
大和:会社としても豚だけでなく、魚や他の生き物を対象にした商品開発にチャレンジしていて、独創的な研究開発をするようになってきています。
その中で、「あれ?最初は◯◯くんがやっていたはずなのに、なんで今江崎くんがやってるんだろう」という場面も度々あるくらい、いまは積極的に自身の守備範囲を広げてくれていますね。
研究の仕事は、人の手が回っていないところを拾っていかないといけない。大きな会社で一つのものだけに集中するのとは違い、あれもこれもやらないといけないのは非常に大変でしょう。ただそのぶん、多能工的に能力が高まっているんじゃないかなと感じます。
キャリアが拡張されてきた。自分のコアを作り直す感覚
ーーKAICO入社後、マネージャーとして見る範囲が広がり、キャリアはステップアップしていると感じますか。
江崎:関わるプロジェクトの数はどんどん増えていますね。組織も大きくなってきているので、仕事のやり方も変えていかなければいけないと強く感じます。
KAICOには様々な分野で活躍している人が集まってきます。違う専門性を持つメンバーの意見を取り入れつつ、一人一人の適性に合う仕事をしてもらえるよう取り組んでいるところです。
高尾:前職では、「自分が会社を作っていく」という感覚は得にくいものだったんじゃないかと思います。KAICOに入社後は、自分という存在が会社作りにも影響していると感じますか。
江崎:大きな会社の中の一部門でのミッションに集中していた頃とは、立場は違うなと感じますね。これまで考えが及んでいなかったセクションのことも考えないといけませんから。
高尾:事業全体を俯瞰して見たうえで、自分のやっていることとの関連性を考える必要が出てきたと。ご自身の中で、そういう環境が一気に身近なものになったんですね。
江崎:前の会社だったら何十年もかけて到達するようなところを、ある意味スキップしている感覚はありますね。一足飛びで多くを勉強しないといけない難しさがある反面、いろんなことに役割を広げるきっかけにもなっています。
選択肢が広がったぶん、その中で自分の得意なものが何なのか。あらためて自分の能力を構築するために捉え直したいと思っているんです。
高尾:ご自身のコアに据えるものを何にするのかを、もう一度作り直すというイメージですか。
江崎:僕は前職でも部署間を跨いだ仕事を求められていましたので、最終的には医薬品開発のプロジェクト全体をマネジメントしていくようなキャリアパスをイメージしていました。
一つの製品を何年もかけて突き詰めたいのか。これまでの経験から身についたものは何か。視野を広げて見直したときに、医薬品だけにこだわらずに違うこともやってみたいなという気持ちも僕の中にあったんです。
KAICOへの転職は、チャレンジという意味で納得のいく選択ができたと思っています。
高尾:面白いですね。前の会社でのキャリアパスと、KAICOに来てから描くキャリアパスとでは見える景色も違いそうです。
前の会社では登るべき階段がいくつか用意されていて、どの階段を選ぶかというもの。
KAICOはそもそも階段が何なのかも見えづらい。三段あがったら「お、ここからはこういう景色が見えるのか」という具合に、上がりながら確かめるイメージですね。
江崎:僕のキャリアが活かせる方向のものも見えてきているので、活躍できるかなという気もしつつ。自分がやっていきたいのか、自分にとってやる必要があるのかをよく考えながらチャレンジしていきたいと思っています。
できることも可能性も、格段に広がったから。改めてキャリアを模索中
ーーKAICOは人材の定着性が高いですが、理由は採用時の見極めにあるのでしょうか。
大和:大前提として、地域に帰ってきたい人・地方に魅力を感じる人を重要視してはいます。
組織の不満は、ほぼ人間関係かお金の問題です。ずば抜けて高いとまでは言えなくても報酬はちゃんと担保して、円滑にコミュニケーションできるような環境作りを心がけています。
新たな採用に費用をかけるよりも、今いるメンバーに報酬を含めてベネフィットで還元される方がいいと考えています。人が入れ替わることにお金をかけるよりも、入れ替わらずに純増していくために投資していこうとしている感覚はありますね。
KAICOは特殊なことをしている会社なので、入ってすぐには馴染めないことも多いと思うんです。
それまでの殻を破って自力で仕事を組み立てられるようになるには、それなりに時間がかかります。だからこそ定着してその時間を確保してもらうことが重要だと考えています。
高尾:大和さんは採用段階で社員のキャラクターまで意識しているんですか。
大和:採用ではそこまでわからないですね。
KAICOはいまのところ研究者がほとんどです。それぞれバックグラウンドが違うこともあってか、互いを尊重し合える人が集まっているように感じます。だから、手が回っていないところがあれば補い合うという関係性ができていると思うんです。
組織としては常に優秀な人が入って来たほうが、全体が引っ張られて組織のレベルも上がっていくと考えていて。個人のモチベーションだけでは限界があっても、誰かが先にいるからこそ追いつこうと成長できる。
もうしばらくしたら、KAICOで人材育成に取り組んでみたいと思い始めているんです。次のステージへ向けて。
高尾:今後のキャリアをどうするか、将来どうなっていきたいかといった話をお二人で交わすことはありますか。
江崎:KAICOで過ごして可能性が広がったぶん、今後のキャリアは目下模索中なんです。
前の会社のほうがキャリアは決めやすかったかもしれません。求められる方向に進みさえすればそれがキャリアになる環境でしたから。
今はやれることも可能性も、もしかすると新卒の就活時くらいまで広がったのかなと。一つのことを追求するのが楽しいのか、色んなことをやりたいのか。
自分の得意なことと興味のある分野をもう一度見直して、どうしていくのが自分にとって楽しい人生になるのか、よく考えるようになりました。
大和:江崎くんと谷口くん、二人の名前で特許を出願した「抗体測定サービス」が製品になって、結構売れたんですよ。
高尾:それは江崎さんがリードして製品化されたんですか。
江崎:みんなで取り組んだものですが、製品のパッケージは僕がデザインしました。ある意味、僕が携わったもので初めてお店に並んだ作品だったんですよ。これは嬉しかったですね。
大和:本来ワクチンにしようとしていたんですが、難しさもあり「違う形にしてみたら売れるかもしれない」ということで方向転換することになったんです。
大企業だとそういうケースはほぼなくて、ワクチンのために作ったものがダメであればそこで終わりになると思うんですね。
でも、ベンチャーではそこで終わりにしたら今までのものが勿体ないということで、発想を変えて右に曲がったり左に曲がったりしながら試してみる。
結果、本来描いていたものとは違っていたとしても、今までやってきたことを一つの形にして世に出せたと思いますね。
このように、今取り組んでいる開発がダメになったとしても、やめるとかペンディングするんじゃなくて、どうにかして他の形にできないかを考えながらやっていくのがスタートアップの面白さだと思います。
高尾:YOUTURNでは「大都市から福岡に移住転職してくると、キャリアで飛び級するような感覚があるかもしれない」と仮説を立てています。
大企業では一個一個ステップを踏んで上がっていくところが、地方都市では飛び級でキャリアを積んでいくようなチャンスが多いんじゃないかと。
江崎:KAICOに来てから、飛び級感はありますね。会社全体に目を向けて、より経営に近いところまで考えながら、自分がやるべき仕事をしているなと感じます。
前職でそういうポジションに行くまでには、いくつものステップがあったと思いますから。自分ができているかは別として、以前は見上げていた人のところに上がってきたような気はしていますね。
プレイヤーとして手元の仕事もこなしつつ、今の立ち位置に合うような形で自分を作っていかなければと感じています。
高尾:戸惑う部分もあるかもしれませんが、すごく地力が付きそうですね。
大和:もちろん人によって飛び級の感じ方は違うかもしれませんが、福岡にCXOクラスの人材が不足しているのは事実です。スキルが伴っていれば機会が巡ってきやすい環境と言えるでしょう。
最初からは厳しくても、入ってからCXOクラスのポジションにトライするチャンスはいっぱいあると思います。
江崎くんみたいに、幅広くやりながら自分のキャリア形成のポイントをどこに持っていくか選んでいくというのは、キャリアの作り方の一つの例ですよね。
今の江崎くんなら、もしまた転職するとしても、研究職系でスタートアップもいけるし、大手の化学会社などにもいける。
新規事業開発ができる人材としてはどんな分野の会社でも、そしてベンチャーであれば経営に近いポジションにもいけるんじゃないかなと思います。
高尾:転職市場からの声のかかり方は確実に変わっているでしょうね。
大和:これまで製薬会社からスカウトされることはあったかもしれないけれど、今はもっと他の業界からも声がかかるようになっていると思いますね。
実際にベンチャーで多能工的な経験をすることで、次のキャリアの選択肢が広がるというのは事実だろうなと感じます。
<編集後記>
想定外の経験だからこそ、想定以上のものを得ることができる。大企業からベンチャーへと移り、葛藤しながらも殻を破ったことで自身の可能性が拡張されたという江崎さん。「結果的に、面白い人生になった」とのことばが印象的でした。
「カイコで世界を変えていく」というミッションに向かって進化しつづけるKAICO。同社と江崎さんが今後どんな道を歩んでいくのか、楽しみです。
累計の移住転職実績100名以上!
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