
幼少期を海外で過ごし、東京の第一線から福岡へ — 家族を軸にした人生設計への転換
“Are you happy?”――ある先輩からの問いかけが、三上さんの人生を大きく変えることになります。東京の大学を卒業後、国内大手メーカーからコンサルティングファーム、IT企業など、約13年間東京の第一線でキャリアを積んできた三上さん。
2024年に8ヶ月の育休を取得後、家族とともに福岡へ移住。現在は株式会社welzoで新規事業の基盤づくりに取り組んでいます。多様な業界を経験してきた彼が、なぜ福岡という選択をしたのか。その背景には、家族との時間を大切にしたいという強い想いと、人生の意義について考え直す軌跡がありました。
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海外育ちだけど、純日本企業へ。「不夜城」で学んだ働き方の現実

——まず、三上さんの生い立ちから聞かせてください。
私は埼玉生まれなんですが、幼少期から高校卒業まで大部分をアメリカのシカゴで過ごしました。高校卒業のタイミングで日本に戻ってきて、父親に「日本人なんだから日本のことをもう少し知った方がいい」と言われて。それで東京の大学に入学しました。
——就職活動ではどのような経験をされましたか?
東京のキャリアフォーラムで国内の大手メーカーとの出会いがありました。父が「いい会社だよ」ってポソッと言って、「じゃあ行くか、ちょっと受けてみるか」ってなって。ありがたいことに就職活動はトントン拍子で進んで入社することになりました。
ただ、当時の私も定年まで同じ会社で勤めあげるキャリアには疑問を感じており、なんとなく「一旦3年間勤めてから考えよう」と思っていて。
キャリアにおいて閉塞感だったり、思い描くような成長を実感できなかったら転職する選択もあるのかな、みたいな感じでした。
——実際に入社してみていかがでしたか?
まさに「不夜城」と呼ばれるような、もう入居しているビルは基本的には常に明かりがついてるような気合いの入った会社でしたね(笑)。でも、本社の事業戦略室という少数精鋭部隊にいて、真後ろが本部長、真横が今の現社長がいる環境で。
もっとあの人に教えてもらっておけばよかったなって、すごい今後悔してるんですけど。
——その後、コンサルへの転職を決意されたきっかけは?
転機となったのは、入社3年目に事業戦略室に所属している時です。当時の本部長と二人で車に乗る機会があった際、「国内市場の中では、ここ10年は特に大きな変化はないと思う」という言葉を聞いたんです。
ちょうどその頃は仕事にも慣れてきて、もう少し刺激が欲しいなと思っていたんですよね。それに、妻が外資系のコンサルティングファームに勤めていたので、彼女の同僚たちと話したりしているとみんなすごい成長早いなとか、かっこいいなって漠然と思っていました。
仕事は充実していたけど、自分の描いたビジネスパーソンのイメージとは少し離れていきそうだったので、ちょっと心配もしていたんです。
コンサルから事業会社へ。「手触り感」を求めた転職遍歴

——転職先のコンサルティングファームではどのような経験をされましたか?
初日に事業部長から「働き方について、しっかりご家族に理解をもらってきなさい」って言われましたね(笑)。基本的に金曜日の22時から飲みに行くのが当たり前だと思うような環境でした。
でも2年半ぐらいで、「一生懸命に提案してるけど、クライアントの状況ってあまり変わってないな」とか「自分は本当にお客さんが求めてることをやっているのかな」とか思うようになって。もっと事業会社の中に入り込んで変えていきたいと思ったんです。
——その後、外資系の大手テレビショッピングを運営する企業に転職されたんですね。
そうです。業務改革みたいなことをやりたいなと思っていて、転職エージェントのリクルーターから話をいただいて。この会社では業務改革とは言ったものの、どちらかというと単純に業務を変えるだけじゃなくて、社員の意識を変えていくっていうところに結構重きを置いていました。
——印象的な体験はありますか?
私が入社した当時によく使われた言葉が「やり損逃げ得」でした。現場を変えていくということに抵抗がある人たちが多くいるように見えていました。
私の一番最初のプロジェクトで、経理を対象にしたワークフローシステムの入れ替えがあったんですが、そのときのディレクターが「三上の言うことだけやりなさい、それ以外は何もしなくていい。自分たちで動かなくいいよ」って言ってるのをたまたま聞いちゃったんです。
もう何も変えたくない、今のままでいいみたいなニュアンスに感じてしまって。「成果を出さないといけない」という気持ちもありつつ、私1人では進めていくのも限界があるなと。どうやって他のメンバーを巻き込んでいくか、考えさせられた時期でもあります。
育休が人生を変えた。娘を見つめて素直になれた自分

——その後、IT企業の営業企画ポジションに転職されて、2024年に育休を取得されました。
娘が生まれたのが2024年春で、8ヶ月の育休を取りました。入社して1年間働いてからでしたね。長期で取得することもある程度決めていたんです。
もちろん当時の時代背景もあるので仕方ないですけど、自分の幼少期に父と一緒に遊んだりした記憶があまりなくて。ちょっとさみしい思いをしたというのもあって、自分が父親になるタイミングでは絶対に育休を取ろうと思っていました。
——娘さんが産まれた後に転職活動したときの心境はどうでしたか?
その後、何気なしに求人をみている時があって。それを見ながら、なんかモヤモヤするなと。面白いと感じる職場も見つからないなとか、自分自身を世の中の求人や職種に当てはめてるなという感覚に陥ったんです。
その時にベビーベッドがあって、生まれたばかりの娘を見てるときに「なんか違うなぁ」「自分は素直じゃないなぁ」「この子がいるのに自分は何を追いかけているんだろう」みたいになって。
——”Are you happy?”という問いかけが印象的でした。
当時の転職活動中に、かつてテレビショッピングの会社で一緒に働いていた方とよく飲みに行ったんです。その方は日本とイギリスのハーフで、50代で独立された方なんですが、飲み会中に必ず「Are you happy?」って聞いてくるんです。
毎回その質問をされるのが鬱陶しかったですね。彼と飲みに行くと憂鬱なことが二つ。一つは次の日の二日酔い、もう一つはその質問をされること(笑)。でも、家で娘を見ている時にふと考えさせられたんです。
——奥様は福岡のご出身。移住の提案はどのようなものでしたか?
妻からはとにかく「福岡行くよ」みたいな感じで。「私は娘と猫を連れて福岡に行くから」って(笑)。私も妻の実家ということもあるし、これから移住する上での「下見」という感じで引っ張られて福岡にはよく来ていました。
もちろん良い印象はあったけど、「キャリアを考えた時に、仕事はあるのか?」っていう漠然とした不安はありましたね。
福岡での新しい暮らし。家の窓から広い空を眺められる贅沢

——実際に福岡に移住されてみていかがでしたか?
もうこっちに引っ越してきて、本当に良かったですね。保育園がちゃんといいところに入れたっていうのもあるし、人に余裕はあるし、空は広く見える。
食事も美味しいし、東京と比べると日照時間が1時間くらい長いのもいいですね。今、7階建ての6階に住んでいて、窓を開けると空と山が見えるんですよ。この高さで、もし東京だとしたら立地の良い高層階にでも住まないと難しいですよね。
——福岡での生活で印象的なエピソードはありますか?
福岡に面接に来たときに、目の前で大きな荷物を積んで運搬している人がいて、その方がつまづいて上のものを落としちゃったんです。その時に、私の前にいた高校生か中学生の女の子たちのグループが、ワーッと走って行ってその人を助けたんですよ。
これは実はかなり大きい出来事で、東京だったらどうなっていたかなと考えました。大都会で余裕なく日々を過ごす環境では、このような思いやりや温かさに触れる場面は少なかった。本当にそのような中で大切な娘を育てたいのかって思ったんです。
——現在の生活はいかがですか?
週末は近所の美味しいパン屋に娘を連れて行って、自宅でコーヒーを入れて、窓を大きくバーンと開けて、パンを切って、コーヒー飲みながら空と山を眺めるんです。
その時に、「このひと時を味わうためだけだったとしても、福岡に移住した意味がある」って思うんです。そこに妻と娘も一緒に座って、パンを食べてるんですよ。週末に、この空間で落ち着いてゆったりした感じは東京では難しいと思いますね。
welzoでの新たなチャレンジ。20人のリクルーターとの出会いから

——福岡での転職活動を振り返ってください。
実は今回20人くらいの転職エージェントの方と話したのですが、なかなか福岡での求人は見つからなかったですね。最終的には同じ案件が提案されたりして、難しいんだなというのは感じていました。
その中で結局YOUTURNを利用したのは、代表の高尾さんが企業の採用担当になりきって、会社や事業を理解しているだけではなくて、普段から経営者や事業責任者と話ができていることでの信頼は厚かった。
そして、きちんと転職希望者のキャリアだけでなく、人生やライフプランについてもアドバイスをしてくれるところが印象に残っています。
——最終的にwelzoを選ばれた理由は?
実は他にも内定をいただいていたんです。給料も同じだったし、ストックオプションも将来あり得ますって言っていただいて。でも、welzoの方がこれまでの経験も踏まえて、もう少し自分らしさを出せるかなって思いました。
一定以上の規模がある組織でないと、自分がやったことが指数関数的に効いてこないというか。事業や組織としてもある程度基盤があるところで力を出していきたいという気持ちがあります。
——現在のお仕事について教えてください。
入社してからは、新規事業開発部門に所属しています。私が担当している仕事内容でいうと、0→1(ゼロイチ)の事業作りではなくて、既存の事業が新たな取り組みをするために基盤を作っているという感じですね。
ちょうど今月から新しく「DX推進室」というのができて、そこと兼務なんです。グループ会社とも連携して、これから業績を伸ばそうとしている企業のサポートをしながら、事業にも関わったりとか。かなり自由にやらせてもらっているなと感じます。
——welzoでの手応えはいかがですか?
まだ入社半年ですけど、多分こういうことができるんだろうなっていうのはイメージできています。だけど、現実的にはそこに全部の工数は割けないんで。それとやっぱりこれまで経験したことないこともすごく多いんですよ。
農業というドメインで、基本的に業界の知見もないし、正直全然知らないところから始まってる。それでも、これまでの経験を組み合わせたりとか、会社の中で誰に聞けば仕組みづくりができるのかなーっていうのは考えてますね。
様々な小さな取組がいずれに大きな効果として実を結ぶよう、繋がりを意識しながら動こうとしています。これまで働いてきた会社でもずっとそうやってきましたから。
「人生の最後を迎えるときに誰に囲まれるか」家族を軸にした人生観

——福岡移住を検討している方へのメッセージをお願いします。
やっぱり「Are you happy?」っていう問いかけですね。満足とはまた違うんですよ、これは。「あなた満足してますか?」っていうのと「あなたはhappyですか?」っていうのは違う。
仕事っていうのは別にあなたじゃなくてもいいよね、という話で。でも家族はあなただけですよねっていう。
——その考え方はどこから来ているのでしょうか?
最近よく思い出すんです。一昔前に、父がまた海外に行かないといけないかもしれないって話になったときに、彼は「家族と一緒じゃないと嫌だ」って言ったんですよね。
それを聞いた瞬間に、「え、親父ってそう思ってるんだ」っていう衝撃がありました。人間誰でも最後の日を迎えるんですけど、「その時に誰が周りを囲んでくれるか」を大事にして日々を生きなさいと。やっぱりちゃんと妻や娘に泣いてほしいとか。
同じように思ってくれる人が一人でもいてくれればいいな思っています。
——福岡に来て、家族との時間の過ごし方は変わりましたか?
例えば、基本的に夕飯は私が作るといった役割分担があります。妻にはカレンダーに何を食べたのか記録してもらって、「食べて美味しかったものに、星をつけてね」って言ってるんです。
最近は、少し星が増えてきている気がしますね。でも、どんどんハードルが上がってます(笑)。九州出身の方はご存じだと思いますけど、こちらのスーパーでお刺身を食べてほしいですね。
これが食べられなくなると思うと、東京には戻れないですね。あとは、近くには娘が遊べる場所が多いですし、どこも東京みたいに混みあっていないんです。最近は週末を利用して家族と気軽に出かけることも増えて、娘も楽しそうです。
もう少し大きくなったら、アウトドアやキャンプなど九州らしさを体験ができるところに足を運んでいきたいなと思っています。
——三上さんの今後の展望について教えてください。
welzoでの仕事は本当に充実しています。まだ半年なので、これから1年、2年、3年経った時にどんな成果を出せているか自分でも楽しみです。
一方で、弊社も時代の変化に取り残されないように、色々なことに手を入れないといけない。やりたいことはたくさんあるけど、人手も時間も足りない。その辺りは課題です。
でも、成果を出していけるぞという兆しがぼんやり見えてきたのは、入社して色々大変なこともあったけど手応えとして持っています。
あとは部門の中に、YOUTURN経由で入社した生嶋さんや高辻さんもいるので。そこは相談しながら、先駆者たちにアドバイスもらいながらですね。
——最後に、改めて福岡移住を検討している方へのメッセージを。
Uターンを希望されている方が多いと思うんですが、九州の地元に帰って(あるいは私のようにパートナーに引きずられて 笑)、素直な自分と向き合ってみたらいいと思います。
このまま仕事していて、そもそも満足できるのか、一体誰と、何のための背比べをしているのか?と、問い立ててみるといいかもしれません。
東京で働き続けることも選択肢ですが、ある意味で「出稼ぎが常態化している」とも言えると思うんです。「一度立ち止まって、そこをちゃんと考えた方がいいよ」っていうのは、言いたいですね。
それに、やっぱり固定費は下がります。不動産や生活費は安いんですよ、福岡は。これは間違いない。給料が下がってもなんとかなりますよ!
編集後記
三上さんへの取材を通して感じたのは、キャリア形成において「幸せとは何か」という本質的な問いに向き合うことの大切さでした。「Are you happy?」という問いかけは、多くのビジネスパーソンの心に響くものではないでしょうか。
仕事での成功や昇進、年収アップといった外的な成果だけでなく、家族との時間、住む環境、日々の生活の質といった内的な充実に目を向けることの重要性を、三上さんの体験談から学ぶことができました。
特に印象的だったのは「仕事はあなたじゃなくてもいいけど、家族はあなただけ」という言葉。キャリアを積む中で見失いがちな、本当に大切なものを見つめ直すきっかけになる言葉だと思います。福岡での新しい生活を通して、三上さんが見つけた「本当の幸せ」。
それは、空が見える住環境、家族との時間、地域の人々の温かさといった、お金では買えない価値のあるものでした。これからも三上さんの福岡での新たなチャレンジを応援していきたいと思います。