株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役 田口一成さんインタビュー。「「恩」と「成長」で加速するソーシャルビジネス。ボーダレス・ジャパン田口一成社長の組織マネジメント」に続く第2弾。

日本でも類を見ないソーシャルビジネス起業家プラットフォームへと成長を遂げたボーダレス・ジャパン。

その成長の根底には、お互いに協力し合うカルチャーの醸成、時には経済的な合理性と真逆の判断がありました。

そんな起業家プラットフォームの企業カルチャーをつくった、田口さん自身の「人として正しいことをする」「困っている人がいれば助ける」というような思想・価値観に迫ります。


【プロフィール】

◇田口 一成氏
株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長。
1980年生まれ。福岡県出身。早稲田大学商卒。大学2年時に、発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。25歳で創業。現在は、日本・韓国・台湾・バングラデシュ・ミャンマー・ケニア・グアテマラなど世界8カ国で20のソーシャルビジネスを推進中


創業者の仕事はカルチャーをつくること


――ボーダレス・ジャパンは外国人向けのシェアハウス運営やオーガニックハーブの栽培、バングラディッシュでの革製品の製造・販売など、20以上の事業を展開しています。新規事業はどういったプロセスを経て承認されるんですか?


田口一成氏(以下、田口) 20人の社長による合議制ですね。

事業を始めたい人がグループ社長たちにプレゼンして、全員が承認したらスタートという形です。実は3日前にも事業承認会があったんですが、1人だけ懸案事項を挙げた社長がいて、再度出し直しになりました。


――20人のうち、1人でも懸案事項を挙げたら承認されないんですか!?


田口 ええ。普通に考えると、20人中19人がOKを出す事業というのは社会的にもビジネス的にもかなり見込みがあると思うのですが、僕らはその1人の意見を大事にします。

やはり全員が自分たちの事業で稼いだお金を拠出しているので、そこを無下にはできません。ボーダレスグループは社会起業家の共同体なので全員が納得していることは大切ですし、たった1人の反対意見にも紳士に耳を傾けることでよりよいプランが出来上がるものです。新会社の承認だけでなく、被災地の支援活動など重要なことはすべて同じようにグループ社長たちの満場一致で決めます。


――重要なスタートを全員で意思決定することで、みながリスクを引き受けたうえで同じ方向を向けるんですね。この仕組みは田口さんがあらかじめ考えたものですか? それとも結果的に?


田口 結果的に、ですね。みんなでやる、みんなで助け合うというなかで自然と今の形になっていきました。

満場一致での承認が成り立つのは、やはり「自分も苦しい時に恩を受けたから、恩を返したい」「1つでも多くの社会ソリューションを世に送り出したい」という気持ちを社長みんなが持っているからだと思います。


――ある意味で超性善説というか、コントロールしようとはしていないんですね。


田口 コントロールしようは一切考えていません。みんないい人だと思っているので(笑)。みんなで知恵出し合って、みんなで助け合って、いいものができると考えています。


――創業から一貫して軸がぶれないのはすごいことだと思います。


田口 「いい社会をつくろう」「そのために一つでも多くのソーシャルビジネスをつくろう」とみんなで同じ目的を追いかけていると、自然と助け合う雰囲気が生まれます。

たとえば、うちの福岡オフィスでは、ハーブティーチームのスペースに子供服が大量に置かれていたりします。子供服のリサイクル事業をしている会社が人手が足りず困っているからと、部署や会社関係なくみんなで子供服のタグ付け作業をしていたりします。


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――大企業やいわゆる縦割り主義の会社だと、セクショナリズムが生まれてしまい「自分は今、忙しいから」となりがちだと思います。そうならずに協力し合える理由はどこにあるのでしょうか?


田口 僕自身は、創業者の一番大きな仕事はカルチャーをつくることだと思っていて、助け合いのカルチャーをすごく大切にしています。

例えば、自分が入社した時は歓迎会を開いてもらったのに、他の人の歓迎会には参加しない。そういうのは人として素敵だと思いません。自分さえ良ければいいという人はボーダレスのカルチャーには合いません。

何につけても「人として正しいのか、思いやりのある行動なのか」と常に口を酸っぱくして言ってきました。

ずっとそうやってきたので、それぞれの事業の社長たちが教える立場になると、同じように指導してるのだと思います。


人を育て、助け合うためにあえて組織は固めない


――「人を育てる」「人として正しいことをできるようにする」ためには、メンバー個々の適性に合った役割・ポジションを与えることも大切だと思います。人事や組織づくりについてはどう工夫されているんですか?


田口 社員の適性・スキルにあわせて組織を固めていくのが一般的なのかもしれませんが、「君はこれ」「あなたはこっち」と決め切ってしまうと結局仕事がつまらなくなるし、成長もしない、と僕は考えています。

「出荷業務をひと通り覚えたら、次は営業」「営業ができるようになったら、次はマーケやってみようか」とどんどん仕事が変わっていくのが理想です。

その分、組織としては常に大変なんですが(笑)。

「できるようになったら抜けていく」「できない人がいればサポートする」「自分だけでなく周りに成長する機会を与える」という考え方が根付いていると思います。


――あえて役割をしばらず組織を固めないことも、助け合うカルチャーにつながっていると。


田口 そうですね。

先ほど少しお話した福岡オフィスにしても、部署ごとのテーブルも仕切りもなく、もう本当にごちゃごちゃです。

そのなかで、ある会社のネット販売が厳しければ隣の会社のEC担当者がサポートに入るし「ちょっと大変だから、ヘルプに1ヶ月あの人をもらえない?」といった話も普通に飛び交ったりしていますね。


――他の会社に、リソースの要求まで(笑)!


田口 最近も、トルコのシリア難民をなんとかしようと1人で奮闘している社員がいるんですけど「彼のとこに誰か送ってあげないといけないよね」「いまミャンマーにいるうちのスタッフはどうだろう?」といった相談が社長たちの間で自然と始まりました。

結局は、人として正しいことをする、困っている人がいたら手を貸す、素直に助け合うというのがすべてかと。

被災地の支援にしても、担当の新卒メンバー2人にはもともと別の事業の承認が下りていていたんです。

本来ならすぐにでも事業をスタートするべきところで支援の話が持ち上がり、承認にかけた結果、「うちの事業を1つ起ち上げるより、今は被災地支援だよね」と満場一致で決まりました。

苦い経験からも助け合いが生まれる


――「人として正しいことをする」「助け合う」という考えのもとでそうした動きができるのは、ボーダレス・ジャパンに外部の資本が入っていない点も大きいのかと思います。社外のステークスホルダーに対して会社の成長をコミットしていたら、事業を始めるにしても「本当はやりたいけど……」となってしまいますよね?


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▲多の津オフィスの様子。自然と助け合いながら働く雰囲気が生まれている

田口 それは大きいかもしれません。

外部資本が入っていないからこそ、外から指示されることはないし、事業がうまくいかなかったとしても、それはすべて自分たちの責任。

それに事業がうまくいかなくても、僕らはあまり心配していません。そうなったら、みんなで助け合えるというのが明らかにわかっているので。

実は3年くらい前に、子供服ブランドの事業が3憶円くらいの赤字を出して、キャッシュが危機的な状況になったことがありました。


――それはボーダレス・ジャパン全体としての危機ですか?


田口 はい。とにかくキャッシュが足りなかったので、他の事業も含めてすべての投資をいったん取りやめました。

革製品の「ビジネスレザーファクトリー」にしても当時は出店依頼がどんどん増えていたんですけど、1年間はすべてストップ。それで赤字が出てしまった会社にキャッシュと人材を徹底的に集めたんです。それがグループ社長たちの総意でした。みんなで助けようと。

結果としてその事業は持ち直せなかったんですが、すごく大きな学びがありましたし、今その会社は同じ社長のままベビー服ブランドにシフトして黒字化しています。


――その社長はものすごくハードな経験をしましたね。


田口 いま彼が言っているのは、「あの記憶は消せない」「とにかく恩返しがしたい」ということ。

この間も「まだまだ事業が小さくてお金では貢献できないから、育成の面で貢献したい」、「新卒がいればうちで引き受ける。自分が責任をもって起業家へ育てます」と話していました。


――その社長は将来的に他の事業がピンチに陥った時も絶対ヘルプの手を挙げる人になりますよね。


田口 その通りです。

そういう経験・想いが会議などの発言にも出てくるんですよね。「俺が応援するから諦めちゃダメ」とか「うちのメンバーを送るから頑張れ」とか、彼自身が言ってくれる人になる。

「制度は思想」。ボーダレス・ジャパン田口社長(3)に続く


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会社情報

所在地福岡市東区多の津4-14-1
設立年月2007年3月
従業員数1名
関連業界ソーシャルビジネス(商社・流通・アパレル・小売・サービス・農業など)
urlhttps://www.borderless-japan.com/
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